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「何で、私……」
止めようと思っても意志に反してボロボロと溢れてくる。必死に拭っても全く止まる気配がない。止め方がわからない。泣いた記憶なんてなかったからだ。
戸惑っていると、腕が伸びてきてその手が頬に触れた。
ガラクが私の涙を拭っていた。
「きれいだな。目が生きているからこその産物だ」
その言葉は憂いを含んでいた。目が死ぬと涙は流せないのかもしれない。
何故涙が流れたのか私にも不明だ。ただ、ガラクの生きたいと願う感情があまりにも強くて眩しくて、無意識に感情が動かされたのかもしれない。
ガラクの涙を拭う手に触れる。大きくて温かい手だ。その温もりによって、私は落ち着きを取り戻していた。
「ごめんね……手が濡れてしまって」
「構わん。久しぶりに珍しいものが見れた」
「その言い方、なんか嫌だ」
涙でぐちゃぐちゃになった顔でガラクを睨む。しかし、ガラクは表情を崩して笑った。その顔は、雑誌で見たもの以上に自然で柔らかいものだった。
恥ずかしくなって顔を逸らす。ガラクも手を元に戻した。
「しかし、今は二○一九年だと言ったな。オレが記憶にあるのは十七の頃…二○○八年だから、もう十一年も経っているんだな」
以前から表に帰ることを考えていた。だから今どれだけ時間が経っているのかが知りたかったのか。私が持参した本の奥付を確認していたのも今理解できた。
先ほどの会話からも、十七歳の時に裏街道に来たとはわかる。外見からも私と同じ高校生か少し上くらいだとは思っていた。
しかしそこで待てよ、と脳内に警鐘が鳴る。
スマホの時にも抱いた違和感。勝手に脳内で換算していた。もし表の世界で成長していたなら、――――今のガラクは、二十七歳か二十八歳になる。
頭を勢いよく振った。突然の奇怪な行動に、隣にいたガラクも目を丸くする。
現実は、あまりにも残酷だ。
「まぁ薬の効能に期待するしかないが、痛みが引いたら――――――」
「帰さないよ」
背後から聞こえたその声は、今まで聞いた中で一番冷ややかなものだった。
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