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「メイ……いつの間に……」
「表に帰るからボクのことは知らないって?結局、裏街道でもボクのことは誰にも見られないんだね」
いつの間にか、公園の入り口に全身真っ赤に染まってるメイが立っていた。右手には大振りのハサミが握られている。
ゆっくりと私たちの元へ近づく。それと同時にギギギ…と、ハサミがアスファルトを引っ掻く乾いた金属音が響く。メイがこちらに近づく度に、地面に赤い足跡が増えた。
「ねぇどうして?ガラクだけはそんなこと言わないって思っていたのに。どうして表なんかに帰ろうとするんだよ」
顔を上げたメイは、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「どうして?どうして帰りたいなんて言うの?表なんて酷いことしかないじゃないか。ガラクだって、そんな現実に絶望したからこの世界に来たんじゃないの?」
縋るような顔だ。血に染まった外見が錯覚に映るほどに純粋な瞳だった。
そんなメイを前にガラクは目を瞑り、暫く思案した。
「確かに、裏街道では表みたいに逃避願望が生まれる事柄はない。だが、それ以外にも何もない。おまえも、この現実に退屈しているから一人でいるのを好まないのだろ」
「違う。ガラクも知ってるでしょ。ボクは一人が嫌いなんだ。だから裏街道では誰かと一緒にいたいってそれで……」
「でも、目の死んだ奴には構ってもらえないから目の生きた人間を連れて来ている。結局それは、表に縋っているのではないのか」
その言葉が気に障ったのか。きっと睨むような表情になり、ハサミをガラクに向ける。
私は慌ててメイに声をかけるが聞こえていないようだ。ガラクも特に取り乱している様子はない。一人だけ狼狽していることに何だかいたたまれなくなった。
「そんなんじゃない……みんな、どうしてわからないんだ…表は最低で最悪な場所じゃないか……ボクがいたころなんて、何もいいことなんてなかったんだ……大好きだった公園でさえ…最後は立入禁止になって…」
ハサミを持つ手は小刻みに震えていた。
「初めてだったんだ……ボクのことをちゃんと見てくれる人……ガラクに出会ってさ……ただでさえ、ここの住民は他人に関心をもたないのに……それでもボクの我儘を…ガラクは聞いてくれてさ…それなのに…」
そのままガラクの肩にうな垂れるように寄りかかった。
初めて二人を見た時から感じていたことだ。血縁関係には見えないが、それと同等の、あるいはそれ以上の繋がりがこの二人の間にはあるように感じていた。
どれだけの時間一緒にいたのか私にはわからない。しかし、メイにとったら貴重で重要で、唯一の存在だったに違いない。
小さく震えるメイの背中を擦るガラクの表情は変わらない。
「おまえと一緒にいたからこそ、中々言い出せなかったんだ。おまえの表を憎む心や感情を知っていたからこそ……。だが、それでも考えが変わることはない」
その瞬間、メイの震えは止まったように見えた。
ゆっくり身体を起こしながらガラクに向き直る。涙で濡れているものだと思ったが、むしろその顔からは感情が欠落していた。
「やっぱり、変わらないんだね…わかったよ」
うな垂れていた腕を掲げる。手にはハサミを握っていた。
「ガラクもみんなと一緒にしてあげる。それなら永遠にボクと一緒にいられるからさ」
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