17人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
ガラクの頬に真っ赤な雫がぽたりと落ちた。元を辿るとメイの手から流れ出たものだった。刃の部分をあまりにも力強く握り占めていることで手のひらが切れていた。
「メイ……手……!」
「やっぱりさ…できるわけないよ……だって…ボクの初めての友達だもん…」
メイの顔は今にも泣き出しそうだった。しかし涙は出ていない、いや涙が流せないのだろう。抑えきれない感情を消化できず、不完全燃焼状態のように見えてとても残酷だった。
メイの腕が力なく投げ出される。
「だって……死んじゃったらもう…お話できないじゃん…ガラクに本読んでもらうこともできなくなるじゃん…」
「メイ……」
メイは小刻みに震えている。小さな身体がさらに小さくなったように見えた。
長い沈黙。
それを破ったのは、ガラクの唐突な一言だった。
「おまえも表に帰らないか?」
「ガラク!?」
それは一番メイには言っていけない言葉じゃないのか。さすがに私でもわかることだ。
だがガラクは、調子を変えることなく言葉を続けた。
「おまえは表が残酷で無慈悲な世界だと思っている。オレもそう思っていた。だが、表は酷いことだけではない。ものの見方を少し変えるだけでどうとでも捉えられる。どのみちオレも目が死んでいるから、普通の生活はできんからな、二人でやり直せばいい。表でも一緒にいてやるよ」
何とも力強い言葉だ。ドラマの台本のようにすら感じられるセリフだが、ガラクは真剣な顔で言った。こんな言葉、相手が女子なら速攻落ちてしまうだろう。
そしてその言葉は、子どもの男の子にも有効だったようだ。
メイは唐突なガラクの提案に不意をつかれた表情を見せた。だがしばらくすると、表情を崩して微笑んだ。
「確かに、裏街道にいるのは生きた感じがしないよね……」
久しぶりに見る笑顔にどこか安堵した。
「メイ……」
「でもさ、ガラク……」
表情を変えぬまま、メイはまっすぐにガラクを見つめる。
「何だ」
「ボク、それだけは嫌なんだ」
突如、メイが腕を勢いよく振った。それと同時に血しぶきが舞った。
メイが、自分の首をハサミで刺していた。
最初のコメントを投稿しよう!