17人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
「メイ!!」私は慌ててメイに駆け寄る。
メイが地面に倒れる。首からは勢いよく血が噴き出していた。さすがのガラクもこの状況には泡を食って身体を起こした。
私はメイの首元にタオルを当てるが、一瞬で真っ赤に染まり、なおも止まる気配を見せない。
「何してるの……何してるのよ……」
私の膝上で気道を確保するようにヒューヒューと息をするメイ。僅かに口を動かしているのがわかり、耳を口元に近づける。
「もういいよ、アリス……」
「よくないよ……!」
メイの小さな手が私の服をきゅっと握っている。私は片方の手でその手を包むようにして握った。
「だって…一人で裏街道に生きてたって…意味ないもん…それに表に帰るのだけは絶対に嫌なんだ……」
「だからって、こんなこと……」
「メイ、喋るな」
ガラクは低く落ち着いたトーンで言った。しかしその声には動揺と困惑が滲んでいた。
傷は首元だ。タオルで抑えているからかまだ辛うじて話せるようだが、それでもメイは口を開くたびに吐血した。
ガラクは止血の際に使用した自分の服を握り、メイの元へ寄る。
メイは私たちを見上げて力なく笑った。
「へへ…見守られるのって幸せだね……今一番幸せだよ」
「メイ……」
気づけば再び私の目は涙で溢れていた。
雫がメイの頬に落ちる。メイは物珍しそうな目で私を見て、頬に手を伸ばす。その手に引き寄せられるように私も身体を屈めた。
「こんなにきれいだったっけ…表にいる時さんざん泣いたのにな…」
「もう喋るな」
ガラクは先ほどよりも強い口調で言う。それだけメイの身体への心配が窺えた。
だがメイは喋るのを止めない。話すたびに喉の傷が開き吐血するが、むしろ今喋らなければならないという使命感すら見られる。
「ねぇアリス……ボク、あの時起きてたんだ…キミが死にたい理由を…話してる時……」
私ははっとする。まさかこのタイミングでその話を持ち出されるとは思わなかった。
メイの声はほぼ擦れている。私は先ほどよりも耳を近づけた。
「アリスはもしかしたらさ…自分の感情を出すのが怖かっただけじゃないかな……本当に無関心な人なら…他人に対して泣くはず…ないもん……」
そうだ。いままでの私はそうだったんだ。
少しでもメイに話す時間を与える為に黙って聞いていた。ガラクも観念したのか、もう何も言わない。
「内なる感情に向き合うのが怖かった…。それによって、傷つくのが怖かった…。アリスは周りを避けてたんじゃない。自分から逃げてたんだよ。…ねぇ、アリス」
私の名前を呼ぶ頃には、ほとんど発声されていなかった。
「君は、今でも死にたいって思っているの?」
その言葉を最後に、メイは動かなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!