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いまだに流れる涙。そして腕の中には動かなくなったメイ。現実と受け入れられずに目を逸らしそうになるが、先ほどまで感じていたメイのぬくもりがだんだん薄れ、目で見なくてもメイが眠ったのは現実だと知ることになった。
私は急いでアパートへ戻った。着替えやタオル、汚れを流す水、そして絵本としおりを持ち、公園へ戻る。
血で汚れたメイの身体を水で濡らしたタオルで拭く。傷の手当をして服を着替えさせ、身なりを整えてベンチに寝かせた。そばにはしおりの挟んだ絵本も置いた。
メイをアパートまで運ぶか悩んだが、以前、公園が家みたいだったと言っていたことからも、この場で元気に遊ぶような住民も今のところ見ていないので、ここに眠らせることにした。
私はこの現状をしっかりと目で捉えてた。
メイは、死んでしまった。
「アリス」
ガラクに名前を呼ばれて頭を上げる。大きく息を吐いて、まっすぐ彼を見た。
「大丈夫。ちゃんと見えてるよ」
「……さすがだな」
いつも電池が切れたように眠るメイだが、今回はもう目が覚めることがないのだなと思うと、再び目から涙が溢れた。
メイの言葉が脳裏から離れない。
――――自分の感情を出すのが怖かっただけじゃないかな
そうだ。自分の感情を出すことで、面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だった。
だから、徹底的に周りから避ける為に…
――――周りから避けてたんじゃない、自分から逃げてたんだよ
…そう言われたら、そうかもしれない。
私は今までこんなに胸が締めつけられる思いはしたことがなかった。涙なんて流したことがなかった。そして、そんな自分が存在するとすら思っていなかった。
答えの出せない感情に向きあうのが面倒だった。いや、怖かったんだ。
――――君は、今でも死にたいって思っているの?
何よりもそれは最初から決めていたことじゃないか。でも、どうして何も言えなかったのだろうか。
メイの頭を撫でる。いつもと変わらない柔らかくて細い髪だが、今は子犬のような温かさは感じられない。
改めてメイを見て気がついた。今ここで眠る彼は、とても幸せそうな顔をしている。自らこの道を選んだとはいえ、最後に幸せだと言った言葉は紛れもなく本心だったのだろう。
しあわせのかたちは、人それぞれだ。最後にそうと感じられて少し安堵した。
胸の前で手を合わせる。それに気づいたガラクも私に倣って手を合わせた。
私たちは公園を出た。
ガラクは少し足を引き摺りながらも歩いてる。もはやケガの痛みなど忘れているようだ。
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