第三部

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「おまえはこれからどうするんだ」唐突にガラクは尋ねる。 「……わからない」   実のところ、私の中で迷いが生まれていた。死ぬことが怖いわけじゃない。でも、メイやガラクに言われた言葉が脳内で渦巻いていた。  このままあと数日でも裏街道にいたら目は確実に死ぬ。メガネがなくても表と変わらないほどに周りが見えていることからもそれは実感できた。でも、表に戻ったところでやることといえばひとつしかない。しかし、このもやもやした感情が消化しきれてないまま遂行していいものなのか――。 「だったら、少し手を貸してくれ」  沈思黙考を続けていると、ガラクは調子を変えずに言葉を続けた。もしかしたら私のこの反応すら見越していたのかもしれない。 「手を?」  その言葉には反応を示さずに、ガラクは図書館へと歩き始める。 「足……大丈夫なの?」 「大丈夫ではないが、感覚が麻痺しているのかもな」  ガラクは苦笑する。  例え受け身だとしても長い間一緒にいたんだろう。そんな存在が突然この世からいなくなったショックで痛みが飛ぶことも変ではない。  図書館に辿り着く。ガラクは本が乱雑に積まれた定位置に向かった。私も続こうとしたが、彼はすぐに戻ってきた。手には分厚い本を持っている。 「こっちだ」  顎で図書館の奥を指して歩き始める。彼が何をしようとしてるのか見当がつかないまま後に続いた。  一番奥の本棚に辿り着く。その本棚にはびっちりと蔵書が並んでいたが、上部に一か所、歯抜けた状態の箇所があった。身長の高いガラクが手を伸ばして届くほどの高さだ。  ガラクは手に持っていた本を空いたスペースに置いた。  すると、どこからかカチッという音が聞こえた。その音を確認したガラクは、本棚を手前に引っ張った。ズズズ…と重みの伝わる音が響き、本棚が回転した。その奥に扉のようなものが確認できた。    目を見張った。まさかこんな場所に部屋が存在するとは思わなかった。それも図書館。物語でよく見られるベタな設定だ。だからこそ心臓も高鳴った。  ガラクは奥の扉を開けた。  扉の先は、六畳ほどの広さの部屋だった。本当に隠し部屋のようだ。  ガラクは無言のまま、中央に置かれている机に向かう。私も部屋に足を踏み入れるが、室内を見て先ほどまで湧いていた高揚感が一気に冷めた。  机上は本と工具で散乱していた。室内を見回すと、服やガラクタのようなものが山積みになっている。日用品やふとんがあることからも、ガラクはここで休息していたのだと見当はつく。だが、あまりにも散らかりすぎだ。  私の顔面は引き攣る。また、知らなくてもいい現実を見てしまった。 「ガラク…もう少し、片付けられるようになった方がいいよ……」  ガラクが普段いる定位置も周囲は本で溢れていた。面倒見が良いと感じていたが、自分のことには無頓着なタイプなのだろう。 「こういったことは苦手なんだ」  ガラクは、机の上を漁りながら、開き直ったように言う。  母親が過保護だったと言っていた。身の回りのことは全て母親が行い、ガラクの全ては仕事に捧ぎ込んでいたんだろう。彼が裏街道に来た年齢を考えても仕方ないことだとは思う。  ガラクの過去は重々理解しているが、それにしても酷いありさまだ。  そこでとあるものが目に入った。部屋の隅に雑誌や新聞の束が置いてある。それと同時に、コンビニに週刊誌が陳列されていなかったことを思い出した。  私は口を噤み、じっと雑誌の束を見ていた。 「これだ」  私はガラクへと視線を戻す。彼は所持していた品を私に渡した。
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