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7
「キスしたと、思う?」
「……はい」
「そう書いてあったっけ」
月島さんの問いに、私は迷わず答えていた。
「はい」
「それ、ほんと?」
何が言いたいのかと首をかしげる私を、月島さんは揶揄っているのだろうか。
「まだ、書いてないのに……」
「はい。まだ更新は……え?」
月島さんの口から、書いてない、と聞こえた気がするが、気のせいだろうか。けれど次の言葉で、気のせいではない、と私は思い知ることになる。
「そんなに見てくれてるのか。感謝だな。星の特典つけないと」
「え? ……どういう……」
「キスしたと思ったのは、小野寺さんの想像でしょ? 俺、まだ書いてないから」
「……あの、それだと月島さんが書いてるみたいに聞こえますよ? ……その冗談、そんなに面白くないですけど」
腰を抱かれたままの体勢で月島さんを見上げたまま、私は唇を尖らせる。
「冗談? それなりに頑張ってるんだけどな。でも、喜んでくれる人がいるわけだ、ここに。そうやって応援してくれる人には、ご褒美あげたくなるよな」
「だから、自分が書いたみたいに言わないでください。作家さんに失礼です。それにあの話の作家さんは、女性ですよ? 月島さんなわけないじゃないですか。やめてください、ほんと」
私のお気に入り作家さんは綾瀬リカさんであって、決してこんなコワモテのお兄さんではないのだ。
「綾瀬リカが女って、どうしてわかるの? 会ったの? まあ今、会ってることになるか」
「だって綾瀬リカですよ? どう考えても女性の名前じゃないですか。え? てゆうか、なんでそこまで知って……」
(私、綾瀬リカさんのこと、名前まで言ったっけ……? 言ってないよね? それなのに、なんで……)
「だから、綾瀬リカは俺だって、言ってるだろ、さっきから」
「……うそ……」
瞠目したまま、私は月島さんのつり上がった目を見つめた。
(月島さんが、綾瀬リカさん? うそ……)
その目が僅かに細くなる。
「残念ながら、本当。だから、このあと拓人と由奈がどうするのか、検証な」
腰に回されていた手にグッと力を込められると、私は為す術もない。
月島さんに翻弄されるしかなくなってしまったことが、綾瀬リカさんから私への特典、なのかな……。
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