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「キスしたと、思う?」 「……はい」 「そう書いてあったっけ」  月島さんの問いに、私は迷わず答えていた。 「はい」 「それ、ほんと?」  何が言いたいのかと首をかしげる私を、月島さんは揶揄っているのだろうか。 「まだ、書いてないのに……」 「はい。まだ更新は……え?」  月島さんの口から、書いてない、と聞こえた気がするが、気のせいだろうか。けれど次の言葉で、気のせいではない、と私は思い知ることになる。 「そんなに見てくれてるのか。感謝だな。星の特典つけないと」 「え? ……どういう……」 「キスしたと思ったのは、小野寺さんの想像でしょ? 俺、まだ書いてないから」 「……あの、それだと月島さんが書いてるみたいに聞こえますよ? ……その冗談、そんなに面白くないですけど」  腰を抱かれたままの体勢で月島さんを見上げたまま、私は唇を尖らせる。 「冗談? それなりに頑張ってるんだけどな。でも、喜んでくれる人がいるわけだ、ここに。そうやって応援してくれる人には、ご褒美あげたくなるよな」 「だから、自分が書いたみたいに言わないでください。作家さんに失礼です。それにあの話の作家さんは、女性ですよ? 月島さんなわけないじゃないですか。やめてください、ほんと」  私のお気に入り作家さんは綾瀬リカさんであって、決してこんなコワモテのお兄さんではないのだ。 「綾瀬リカが女って、どうしてわかるの? 会ったの? まあ今、会ってることになるか」 「だって綾瀬リカですよ? どう考えても女性の名前じゃないですか。え? てゆうか、なんでそこまで知って……」 (私、綾瀬リカさんのこと、名前まで言ったっけ……? 言ってないよね? それなのに、なんで……) 「だから、綾瀬リカは俺だって、言ってるだろ、さっきから」 「……うそ……」  瞠目したまま、私は月島さんのつり上がった目を見つめた。 (月島さんが、綾瀬リカさん? うそ……)    その目が僅かに細くなる。 「残念ながら、本当。だから、このあと拓人と由奈がどうするのか、検証な」  腰に回されていた手にグッと力を込められると、私は為す術もない。  月島さんに翻弄されるしかなくなってしまったことが、綾瀬リカさんから私への特典、なのかな……。
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