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プロローグ
「由奈……」
必要以上に距離を詰めてくる拓人の視線から、逃れられない。
一緒に資料を探してくれと頼まれてついて来た書庫の奥で、由奈は狼狽えていた。
「伊藤さんとは、何にもないよ? 頼まれてた書類を渡しただけで……」
「じゃあ、なんで伊藤が由奈に耳打ちする必要があるんだよ」
「んー……」
確かにそれは必要なかったかもしれない。お礼を言われただけだったし。
「あっ……」
不意に拓人に腰を引き寄せられ、由奈は戸惑った。
いくら人がいないと言ってもここは会社の中で、誰かが来るかもしれないのに。そして、そんな状況でも本心では嫌がっていない自分の気持ちにも、由奈は戸惑う。
いくら拓人とは恋人同士だからといって、会社でこんなこと——。
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