キャシーは思い出した。あたしはパパに・・・

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   ネットで見つけたジャパニーズ・ヘンタイ・アニメ。  胸糞な展開、淫らなシーン。  兄が妹をレイプするとかアホか。  そう思いつつも飽きずに眺めていた。  そして、突然の事。  ・・・あれっ?  思わず声が出た。  封印されていた魔物が息を吹き返したかのように、いきなり忌まわしい記憶が蘇ったから。  そうだ、あたしは幼い頃、パパに性的虐待を受けていた。  語るのも(おぞま)ましい(よこしま)な行為の数々が映像として脳裡に浮かび上がる。  あんなことされた。こんなこともされた。  詳細を思い出すにつれ気が狂いそうになるほどの激しい頭痛に見舞われ、悶絶し、過呼吸を起こした。  今は優しいパパ。ニコニコと笑顔が絶えないパパ。  でも! 許せない。  古い苦痛の記憶がパパへの思慕の念を吹き飛ばした。  あんな事なかったかのように振る舞って、完璧なパパを演じてたんだね。  白々しい!  覚えてるはずないと思ってるんでしょ。・・・覚えてなかったけど。  とにかくあたしはもう思い出した。  ただ怒りだけが溢れてくる。  既に思春期の真っ只中にいるあたしを潔癖な正義感が突き動かし、破滅的な行動へと向かわせる。  ママに話そう。  今更な事かもしれない。この幸福な家庭を完全に壊してしまう事にもなりかねない。  それでもパパの所業は裁かれなければならないんだ。  ママは黙って聞いていた。  話し終わった時の悲しそうな顔。  重苦しい静寂。  あっ、と思った。あたしの虚偽記憶の可能性はないの?  もしそうだったら・・・? 何しろ幼い時分の話。そんな気もしてきた。  とんでもない事をしてしまったのかもしれない。  気まずい沈黙の後、ママはぽつり呟いた。 「覚えていたのね」  脊髄に衝撃が走る。  事実だった。ママも知っていた。  でもね、とママが言う。正確じゃないわよ、と。 「今のパパはね、あなたが言うような事は一切何もやってない。これは本当よ、信じて」 「・・・今の?」  あたしは混乱し、一番引っかかる言葉を反復した。  ママは俯き、言葉を搾り出す。 「私とは血の繋がりがあるけど、あなたとパパに血縁はないわ。パパとは再婚なの。あなたが四歳の時に」  全く記憶になかった。そういえばあたしが四歳以前の写真。両親が一緒に写っている写真がない。 「もう真実を知っておいた方が良いみたいね・・・・・・」  そう言うと、ママは辛そうに顔を歪ませ、更なる驚愕の過去を語り始めた。  あなたを虐待していたパパは再婚する前の最初のパパ。あなたと血の繋がった本当のパパ。  毎日のようにあなたを弄んでいたわ。  ママは止めようとしては殴られ、蹴られ、どうにもならなかった。  泣いても、叫んでも、無駄。  公的な機関に訴え出る事も考えたけど、それもできなかった。  そんな真似しやがったら俺はお前らを道連れにして死ぬ・・・と脅されたから。  誰にも相談出来ない。当時のママは心を病んでいった。  そしてある日、惨劇は起こったの。  眠らせた幼いあなたと行為中のパパの姿に錯乱したママは、包丁を持って襲い掛かり・・・・・・パパの性器を切り落としてしまったのよ。  そして、そのまま自分の首を突いて自殺した。  死んだの。  あたしはわけが分からずポカンとしていた。  何を言い出してるのかと思った。  ふざけてるの?  でもママの目には涙が浮かんでいる。  ママは続けた。  性器を失ったパパはそれでむしろ正気に返ったのね。  深く後悔したの。神父様の付き添いの下、妻の墓前に(ひざまず)いて心からの許しを乞うたわ。  そして…。  女として生きる決心をした。  母親としてあなたを立派に育て上げようと。  幸いすぐに良き理解者に巡り会い、結婚することもできたの・・・・・・。  ママは語り終わり、あたしは好奇心のままに変なアニメなんか見た事を心底後悔した。
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