65人が本棚に入れています
本棚に追加
第十一話 私刑
先日、補給処でアレク達と乱闘した相手グループの一人が、アレク達に助けを求めてきた。
相手グループのリーダー格であるルドルフが、先輩学生達に連れて行かれたためであった。
アルがアレクに尋ねる。
「・・・どうする? アレク??」
アレクが答える。
「取り敢えず、小隊全員で様子を見に行こう!」
トゥルムが同意する。
「そうだな」
ドミトリーも同意する。
「ですね。八人いれば、何とかできるでしょう」
アレクが、助けを求めてきた学生に尋ねる。
「何処に連れて行かれたか、判るか?」
学生が答える。
「こっちだ!」
アレク達八人は、学生に案内されて「ルドルフが連れて行かれた」というその場所へと向かった。
その場所は、士官学校校舎の外れにある、一階から二階にあがる階段の踊り場であった。
ルドルフ一人を先輩学生達が取り囲んで、口論しているようであった。
今、まさに先輩学生達による私刑が始まろうとしている、その様子を見たトゥルムが口を開く。
「新入生一人に十二人で取り囲むとは、卑怯ではないか。あやつらに『戦士の誇り』は無いのか?」
ドミトリーが答える。
「『戦士の誇り』や『物事の道理』が通じる相手じゃ無さそうですね」
ナディアが尋ねる。
「彼、十二人相手に、どうするつもりかしら?」
エルザが答える。
「さぁね。私、アイツ嫌いだから、ボコボコにやられたら良いのに」
ナタリーは、雰囲気が変わったルイーゼを伺う。
「ルイーゼ?」
ルイーゼは、ナタリーに笑顔を見せるが、先輩学生達やアレク達など周囲の状況を確認すると、目付きが変わる。
アルがアレクに尋ねる。
「どうする? アレク?」
アレクが答える。
「・・・様子を見よう」
取り囲んだ先輩学生の一人がルドルフの制服の襟首を掴む。
「なんだ! その態度は!!」
ルドルフは、自分の襟首を掴む先輩学生の手を掴む。
「クズが! 離せ!!」
「てめぇ!!」
先輩学生達がルドルフに殴り掛かる。
その様子を見ていたアルが傍らのアレクに話し掛ける。
「・・・始まったな」
「ああ」
アレクは彼等の戦いぶりを観察して、考えていた。
上級騎士である父のラインハルトや兄のジークフリートなら、先輩学生達を何十人と相手にしても、一人で勝つだろう。
アレクの父や兄と、先輩学生達とは、それくらいの力量差が見て取れた。
最初は威勢良く先輩学生達を殴り返していたルドルフだが、次第に人数差により先輩学生達に押されていく。
アレクが呟く。
「・・・アイツ。ルドルフの奴、上級騎士じゃ無さそうだな」
アルが答える。
「はぁ? 上級騎士なんて、滅多にいる者じゃないぞ? 近接戦最強の上級職で、騎士系の最上位職だ」
ルイーゼも口を開く。
「ルドルフが上級騎士なら、とっくに先輩達が半殺しにされてるわよ」
ナタリーも口を開く。
「助けないの? アレク?」
アレクは、ナタリーからの問いには答えず、ルドルフの方を見る。
ルドルフと先輩学生達の乱闘は、もはや先輩学生達による一方的な袋叩きになっていた。
アレクとルドルフの目が合う。
ルドルフは、床に這いつくばりながら、先輩学生達ではなく、アレクを憎悪に満ちた目で睨み付けていた。
アレクは、決断する。
「皆、助けに行こう!」
待ってましたと言わんばかりにアルが答える。
「しょうがねぇなぁ!!」
目付きが変わったルイーゼも答える。
「気を付けて! アレク!」
意気込むナタリーも答える。
「行きましょう!!」
アレク達八人は、乱闘現場に割って入り、先輩学生達と対峙する。
アレクが先輩学生達に向けて告げる。
「もう、その辺にしてやって下さい!」
先輩学生の一人がアレクの方を見る。
「なんだぁ? お前か??」
再び、アレクが先輩学生達に向けて告げる。
「先輩方、もう、十分でしょう」
蜥蜴人に獣人、エルフ、ドワーフという亜人達を連れたアレク達八人に、先輩学生達は警戒して一歩引き下がり身構える。
先輩学生の一人がアレクに迫る。
「お前ら、邪魔する気か? ああん??」
アレクに迫る先輩学生の前に、蜥蜴人のトゥルムが割って入り、立ちはだかる。
「なら、どうする?」
先輩学生は、自分達より二回り以上、体格が大きいトゥルムに怯みながらも、負けじと迫る。
「お前ら!! ここに居るウサギ・アマギさんとソナーさんは、あの『フナムシ一家』の下位組織である『腹筋同盟』のメンバーなんだぞ!!」
アルを除く、アレク達のほとんどが怪訝な顔をして呟き、互いに顔を見合わせる。
「・・・フナムシ一家? ・・・腹筋同盟?? なにそれ??」
アルが、小隊の皆に解説する。
「フナムシ一家ってのは、帝都の繁華街で暗躍するギャング団のことで、腹筋同盟ってのは、その下位組織の半グレ・チンピラ集団ってところだ」
アレクが納得する。
「そうなんだ。アルは物知りだね」
アルが小隊メンバーに解説していると、二階から階段を降りてくる者達が現れる。
最初のコメントを投稿しよう!