第十四話 遭難

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第十四話 遭難

 アレクとルイーゼの機体の周囲に、他の小隊のメンバーの機体が舞い上がってくる。  先導する教官機には、教官のジカイラとヒナが乗っていた。  ジカイラが傍らのヒナに話し掛ける。 「ヒナ、良く見張ってろよ。何せ、今日初めて飛ぶヒヨッコ達だからな」 「了解、任せておいて!」  ヒナは、望遠鏡で目標高度まで上昇してくる学生達の機体を確認する。 「ユニコーン、グリフォン、セイレーン、フェンリル、全機確認」 「了解。ヒナ、引き続き観測頼む」 「了解」  しばらくして、貴族組の機体も上昇してくる。 「バジリスク、ウロボロス、ガーゴイル、ヘルハウンド、全機確認」 「了解。全部揃ったな。先導する。ヒナ、手旗信号を頼む」 「了解」  ヒナは、学生達に手旗信号で教官機に追従するように伝える。  アレクが伝声管でルイーゼに伝える。 「教官機より『我に続け』。行くよ、ルイーゼ」 「了解!」  アレクは操縦桿を動かして自分達の飛空艇を教官機に追従させる。   やがて、一定間隔で空を飛ぶ士官学校八個小隊の飛空艇は、帝都南側の海の上空に出る。    二時間ほど飛行を続けたところで、問題が発生する。  アレクとルイーゼの機体が、徐々に右側に流されていく。  ルイーゼが伝声管でアレクに伝える。 「機体が右に流されているわ!」  アレクが答える。 「右側のエンジンの出力が徐々に下がっているんだ」  アレクは方向舵と左エンジンの出力を調整して、できる限り機体をまっすぐ飛ばす。  しかし、二人の機体の右エンジンは停止してしまう。  アレクが伝声管でルイーゼに伝える。 「右エンジン停止!! これより慣性飛行で滑空、不時着する! ルイーゼ! 紫の信号弾と、手旗信号を頼む!!」 「了解!!」  ルイーゼは、備品入れから紫の信号弾を探し出すと、発射装置で打ち上げる。  打ち上げられた紫の信号弾は、空に大きな弧を描いて飛んで行く。  滑空するアレクとルイーゼの機体は、徐々に高度を下げていく。  ヒナがアレクとルイーゼの機体の異常に気が付く。 「ジカさん、ユニコーン01(ゼロワン)の航路が逸れているわ」 「何だと?」  ヒナは、打ち上げられた紫の信号弾も視認する。 「ユニコーン01(ゼロワン)より救難信号、視認! 手旗信号は、『不具合により我、操舵不能。これより滑空し、不時着す。救助求む』よ!!」  ジカイラが驚く。 「不時着するって!?」 「そう!!」  ジカイラもアレクとルイーゼの機体ユニコーン01(ゼロワン)を見る。 (まずい。あいつらの機体は、対岸に向けて流されてる)  ユニコーン01(ゼロワン)は徐々に高度を下げていくと、海岸沿いに伸びる雲の中に消えていった。  ヒナがジカイラに尋ねる。 「ジカさん、どうするの?」 「大丈夫だ。飛空艇は着水しても水に浮く。沈みはしない。それに、ヒヨッコたちを引き連れたまま、雲の下に行くのは危険だ。二重遭難の危険がある。・・・一旦、このまま士官学校へ戻るぞ!」 「了解!」  ジカイラ達は、士官学校八個小隊の飛空艇を引き連れて、航路を士官学校に向けた。 -----  アレクとルイーゼの機体は、海岸沿いに伸びる雲の中を滑空していた。  伝声管からアレクの声がルイーゼに聞こえる。 「真っ白だ。・・・何も見えない」  やがて雲が切れ、二人の機体は雲の下に出る。  雲の下は薄暗く、雨が降っており、二人の機体は雨の中を滑空しながら、その高度を下げていく。  アレクは機体を上手く操縦し、砂浜が広がる海岸沿いの浅い海上に着水させる。  アレクがルイーゼに指示する。 「海が荒れる前に、二人で機体を海岸まで押そう!」  「判ったわ!」  二人は海の中に飛び込む。  腰まで海に浸かりながら、二人は機体を砂浜へと押していく。  飛空艇の右エンジンは故障して止まっていたが、浮遊(フローティング)水晶(クリスタル)は生きていたため、二人で押すと水に浮く機体は、簡単に動かすことができた。  二人で機体を砂浜に押し上げると、アレクが備品入れからロープを取り出して、機体が潮に流されないようにロープの端を機体に結び、もう一方を海岸の木立の木に括り付ける。  二人は、飛空艇から非常用備品箱を降ろすと海岸の木立の中に入り、何本かの木の間に小さな簡易テントを張る。  二人がテントを張り終える頃、陽が傾き始め、テントの下に二人で座って雨を凌ぐ。  アレクがルイーゼに話し掛ける。 「授業で教わったとおりの場所に非常用備品箱があって良かったよ」 「そうね」 「お腹、空いてない? 非常食あるよ」 「ありがとう」  ルイーゼは、アレクが差し出す非常食を受け取ると、一口、口にする。 「ずぶ濡れだね」  「ええ」 「ルイーゼ、服を脱いで」 「え!?」 「服が濡れたままだと、体温が奪われる。服を脱いで、これに包まって」  アレクは非常用備品箱から毛布を取り出すと、ルイーゼに渡す。 「判ったわ」  二人は立ち上がって服を脱ぐと、テントの縁に掛ける。  手早く服を脱ぎ終えたアレクは、テントの下に座ると、脱衣中のルイーゼの下着姿に目を奪われる。  暗殺者(アサシン)として鍛練した結果であろう、しなやかな筋肉が付いている細く長い四肢、年齢の割には膨らんでいる胸、くびれた腰、発育したお尻。  上の下着まで脱いだルイーゼは、両腕で胸を隠しながら、アレクの隣にやって来て座る。  アレクがルイーゼの様子を伺うと、体が小刻みに震え、凍えていることに気が付く。 「こっちへ」  アレクは、ルイーゼの腕を取り、自分の両足の間へルイーゼの体を引き寄せる。  ルイーゼは、アレクに引き寄せられたまま、素直にアレクの両足の間に座る。  アレクは背中から毛布を被ると、両足の間に座らせたルイーゼを後ろから抱き締め、毛布ですっぽりと包み込む。  冷えたルイーゼの背中に、温かいアレクの男の筋肉の感触が伝わる。  ルイーゼが呟く。 「・・・温かい」  ルイーゼがアレクの温もりを感じていたように、アレクもルイーゼを感じていた。  女の柔肌の感触、ほのかに香る石鹸の匂い。  やがて日没となり、夜の帳が降りてくる。  二人は月の無い闇夜の中、仮設テントの下で互いの肌と温もりを合わせて、雨を凌いでいた。  雨の降り頻る音と、波の音が闇夜に響く。  ルイーゼがモジモジしながら口を開く。 「あの・・・アレク」 「ん?」 「・・・当たっているんだけど」 「何が?」 「・・・アレクのオチ●●ン」  ルイーゼの柔肌の感触と女の匂いに、思春期のアレクの体は、敏感に反応していた。 「・・・ごめん」 「良いの。謝らないで」  そう言うとルイーゼは、自分を抱き締めるアレクの左腕の上に、自分の右手を置いて触れると、そのままアレクの左肩に頬を寄せて寄り掛かる。 「ルイーゼ?」  アレクがルイーゼの様子を伺うと、ルイーゼはアレクに懇願する。 「このままで居させて。お願い」  ルイーゼは、アレクに包まれ、守られているという安心感から、そのまま眠りに就く。  アレクは、穏やかな寝息を立てるルイーゼを胸に抱きながら、眠れない夜を過ごした。
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