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第百五十一話 霧の中の死闘
アレク達ユニコーン小隊は、濃霧の中を突撃する。
ルイーゼは、アレクの手を引きながら走る。
「アレク! こっちよ!!」
暗殺者であるルイーゼには、敵感知スキルがあるため、濃霧の中でもルドルフ達グリフォン小隊のの位置を把握することができた。
しかし、人物を特定するまでのことは出来なかった。
(・・・三人、三人、二人。 三つに分かれている。・・・恐らくココの三人がグリフォン小隊の中心!!)
ルイーゼはアレクの手を引きながら、グリフォン小隊の隊長であるルドルフが居るであろう、小隊の中心を目指す。
エルザとナディア、トゥルムとドミトリーは、杭を避けながら走っているうちに、互いに近い位置になっていた。
四人の前にグリフォン小隊の二人が現れる。
一人は戦士、もう一人は魔導師。二人とも女の子であった。
戦士を見たエルザが口を開く。
「ゴツい女が現れたわよ!!」
三叉槍を構えてトゥルムが叫ぶ。
「行くぞ!!」
女戦士は、戦槌を大きく振りかぶると横殴りにトゥルムに殴り掛り、トゥルムは大盾を構えて戦槌による攻撃を受け止める。
「ぐぅっ!!」
鈍い金属音が響き渡る。
女魔導師がナディアに向けて手をかざし、魔法を唱える。
「雷撃!!」
雷撃がナディアを襲う。
「かはっ!!」
雷撃を受けたナディアは、苦痛でその場にしゃがみ込む。
「ナディア! 大丈夫!?」
エルザがしゃがみ込むナディアを気遣う。
「・・・平気よ。第一位階魔法で一回攻撃されただけで、死んだりしないわ」
召喚者であるナディアがダメージを受けた事で、水の精霊による霧は、少しづつ薄くなっていく。
エルザが女戦士に駆け寄り、両手剣で斬り掛かる。
「このぉおお!!」
女戦士は戦槌でエルザの両手剣の斬撃を防ぐと、戦槌でエルザに反撃する。
エルザは、素早く後ろに飛び退いて戦槌の攻撃をかわす。
「へへ~ん。当たりませんね~」
エルザの軽口に女戦士が答える。
「その声は! ・・・お前、『あの時』の猫女か!?」
『あの時』とは、アレク達やルドルフ達が士官学校に入学したての頃、補給処でアレク達ユニコーン小隊とルドルフ達グリフォン小隊で乱闘した時の事であった。
エルザが女戦士に言い返す。
「グラマラスな獣耳アイドルのエルザちゃんに向かって、『猫女』とは失礼ね! 筋肉女に言われたくないわ!!」
「何だと!?」
エルザと頭に血が上った女戦士は、激しく剣戟を繰り返す。
周辺には、金属同士がぶつかり合う音が響く。
「治癒!!」
ドミトリーが魔法で攻撃を受けたナディアに回復魔法を掛ける。
「ドミトリー、助かるわ」
ナディアは立ち上がると、ドミトリーへの御礼を口にする。
「すまんな。ドワーフは短距離型なんだ。長距離走は苦手でな。・・・遅くなった」
女魔導師に対して身構えながらナディアがドミトリーに告げる。
「・・・私達の敵は、二人のようね」
ドミトリーも拳を握って構えを取りながら答える。
「・・・どうやら、そのようだな」
グリフォン小隊を目指して走るアルとナタリーの前に、グリフォン小隊の三人が現れる。
グリフォン小隊の隊長であるルドルフ、戦斧を持った戦士と魔導師であった。
アルは、ナタリーを背にグリフォン小隊の三人に対峙すると、斧槍を大きく二回振り回して正眼に構え名乗りを上げる。
「我こそは『黒い剣士』こと帝国無宿人ジカイラが一子、アルフォンス・オブストラクト・ジカイラ・ジュニア!! いざ!!」
アルとナタリーを見たルドルフが呟く。
「・・・違う。こいつらじゃない」
アルを見ながら戦斧の戦士が呟く。
「『黒い剣士』だと!? ジカイラ中佐の??」
次の瞬間、女の子の声で叫び声が響き渡る。
「隊長! こっちです!!」
その声を聴いたルドルフが戦斧の戦士に向かって呟く。
「ここは任せたぞ」
そう言うとルドルフは、声がした方角に向かって走って行った。
魔導師がアルに向けて手をかざし魔法を唱える。
「氷結水晶槍!!」
魔導師がかざす手の掌の先の空気中に、氷の槍が作られると、アルを目指して飛んでいく。
「魔力魔法盾!!」
ナタリーは、アルに防御魔法を掛ける。
アルを目指して飛んできた氷の槍は、ナタリーが作り出した魔法の防御壁にぶつかって青白い光を放って消える。
「チッ!」
舌打ちする魔導師に戦斧の戦士が告げる。
「止めておけ。お前じゃ、あの娘に勝てない。『爆炎の大魔導師』の娘だったな?」
魔導師が驚く。
「『爆炎の大魔導師』って、あの革命戦役の英雄の!?」
「そうだ。それに・・・小細工は要らん! 相手に不足は無い!!」
そう言うと戦斧の戦士は、戦斧を構えるアルに向かって戦斧を構える。
--少し時を戻したアレクとルイーゼ
グリフォン小隊を目指して走るアレクとルイーゼの前に現れたのは、全身に火傷を負って毛布の上に横たわっている戦士の男と、ルイーゼによって右足に矢傷を受けて治癒中の地面に座る斥候の男、そして二人を回復魔法で治癒中の僧侶の女の子であった。
僧侶の女の子は、現れたアレクとルイーゼに対して身構える。
斥候の男は、慌てて少し離れた地面にある自分の剣を取ろうとする。
ルイーゼが斥候の男より先に、斥候の男が取ろうとしていた剣を足で踏む。
「くっ!!」
斥候の男は、地面からルイーゼの顔を見上げる。
ルイーゼは斥候の男を見下ろしながら告げる。
「・・・やめておいた方が良いわよ?」
アレクは、身構える僧侶の女の子を腕を取って告げる。
「二人を相手に戦うつもりか? 大人しく降参しろ」
次の瞬間、僧侶の女の子が大声で叫ぶ。
「隊長! こっちです!!」
叫び声を聞いたルイーゼの顔つきが変わる。
ルイーゼは、素早く叫んだ僧侶の女の子の奥襟を掴むと、水月に二回、膝蹴りを食らわせる。
「ぐうっ! かはっ!!」
僧侶の女の子は、両手で蹴られたお腹を押さえて、その場にうずくまる。
更にルイーゼは、うずくまった僧侶の女の子を蹴り倒すと、女の子の左手の甲を足で踏み付ける。
「あああーっ!!」
僧侶の女の子は右手で自分の左手を押さえながら、絶叫する。
涙目の女の子にルイーゼが冷たく告げる。
「彼は、『大人しく降参しろ』と言ったはずよ」
近接戦能力がほぼ皆無に等しい僧侶の女の子に対して、情け容赦の無い攻撃を加えるルイーゼを見て、アレクが止めに入る。
「ルイーゼ! もういい!!」
(女の子同士の戦いって、ホントに容赦無いな・・・)
ルイーゼは、女の子の左手から踏んでいた足を離す。
「叫び声を聞きつけて、ルドルフや彼らの仲間がここに来るわ。・・・アレク。どうするの?」
「仕方がない。彼女達は縛っておこう」
アレクとルイーゼは、斥候の男と僧侶の女の子をロープで縛る。
僧侶の女の子には、魔法を使えないようにルイーゼがさるぐつわをして口を塞ぐ。
火傷の男は、動けそうもないので、そのまま毛布に寝かせておく。
ほどなく、アレクとルイーゼの前に、薄くなっていく霧の中に人影が現れる。
アレクが呟く。
「・・・来たな」
霧の中の人影から現れたのは、グリフォン小隊の隊長であるルドルフであった。
「見つけたぞ」
ルドルフはそう言うと、剣を抜いて構える。
アレクも剣を抜いて構えると、ルイーゼに告げる。
「ルイーゼ。オレは、こいつと決着をつける。手を出すなよ」
ルイーゼが驚く。
「アレク!?」
ルドルフがアレクを挑発する。
「できるか? 金持ちお坊ちゃんに?」
アレクは無言で剣を構えたまま、ルドルフを睨み付ける。
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