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第百五十二話 決勝戦の趨勢
「おりゃあああああ!!」
「おらぁあああああ!!」
互いに雄叫びをあげながら、エルザと女戦士は、激しい戦いを続けていた。
エルザが三~四回、両手剣で斬り付けると、戦槌の柄で斬撃を防いでいた女戦士が反撃する。
戦槌の攻撃をエルザは後ろに飛び退いて避ける。
二人の戦闘は一進一退であり、速さと手数でエルザが優勢であるものの、一撃の重さでは女戦士の方が上であった。
女戦士が口を開く。
「まったく、チョロチョロと。小賢しい猫女め!」
両手剣を構えながらエルザが女戦士に言い返す。
「ニブい筋肉女に、とやかく言われたくないわね!」
女戦士に向けて両手剣を構えるエルザの前に、レイピアを構えたナディアが割り込んで出てくる。
「そろそろ交代ね」
ナディアの割り込みにエルザが不満を口にする。
「あ~ん、もぅ。・・・良いところなのに!!」
「いくわよ!!」
ナディアは、レイピアで女戦士に斬りかかる。
斬り掛かってきたナディアを見た女戦士が驚く。
「エルフ!?」
「そうよ! 驚いた?」
獣人三世であるエルザは、普通の人間より身軽で素早く動くことができたが、エルフのナディアは更に速かった。
ナディアの斬撃は、エルザの斬撃よりも遥かに速い。
ナディアが使っているレイピアは、エルザが使っている両手剣よりも細身であり、一撃の威力に劣るが、その分、速さがあり、刺突することもできた。
ナディアは斬撃にフェイントと刺突を混ぜ、ナディアが斬撃を放つ度にレイピアの鋭い剣先が風切り音を立てる。
ナディアは、女戦士が横殴りに振るった戦鎚をくぐると、素早く身を翻して女戦士の右足の膝の裏側をレイピアで斬りつける。
「ぐあっ!!」
女戦士は嗚咽を漏らし、戦鎚を杖代わりにして負傷した右膝を地に着ける。
ナディアは至近距離で、負傷した女戦士に向けて手をかざすと、精霊を召喚する。
「光の精霊!!」
ナディアに召喚された光の精霊は、女戦士に衝突すると、青白い光を放つ。
「うぁああああ!!」
光の精霊が衝突した女戦士は、感電したように全身を硬直させて絶叫する。
やがて光の精霊は、青白い光を放ちつつ、消えていった。
女戦士は、崩れるように地面に倒れ、呻き声をあげる。
「ううっ・・・」
ナディアが地面に倒れた女戦士を見下ろしながら告げる。
「お姉さんの一撃に痺れたかしら??」
女魔導師は、トゥルムに向けて手をかざして魔法を唱える。
「雷撃!!」
「ぐっ!!」
トゥルムは、大盾で雷撃を防ぐと、三叉槍を水平に振るい、女魔導師を斬りつける。
「ぬぅん!!」
女魔導師は、周囲に立ち並ぶ杭の影に隠れ、三叉槍の一撃を防ぐ。
トゥルムの三叉槍が、周囲に立ち並ぶ杭にぶつかり、乾いた音を立てる。
女魔導師がトゥルムを挑発する。
「バ~カ。この地形で、そんな長い得物が使えるか!!」
トゥルムは、大盾の裏側からショートスピアを取り出すと、三叉槍からショートスピアに武器を持ち変える。
トゥルムは、踏み込んで女魔導師との距離を詰めると、ショートスピアで女魔導師に斬り掛かる。
「ふんっ!!」
トゥルムが振るったショートスピアは、三叉槍より短いが軽いため、斬り付ける速度が段違いに速くなる。
「きゃっ!?」
後ろに飛び退いて避けた女魔導師は、トゥルムの攻撃速度が速くなった事に驚く。
女魔導師は、トゥルムから逃げながら憎まれ口を叩く。
「ルドルフ隊長みたいなイケメンに迫られるなら、ともかく。・・・何で私には、蜥蜴男が迫って来るのよ!?」
憎まれ口を叩いていた女魔導師は、自分の背後に黒い樽のような体型の者が居ることに気が付く。
「えっ!? 何??」
黒い樽のような体型者は、密かに女魔導師に接近していたドミトリーであった。
ドミトリーは、女魔導師の背後に回り込むと、背中合わせになるように立ち、気合いをあげると共に、女魔導師の背中に自分の背をぶつける。
「ハァッ!!」
鉄山靠と呼ばれる、背や肩を相手にぶつける拳法の技であった。
ドミトリーの必殺技を受けた女魔導師は、弾き飛ばされ、目の前の杭にぶつかると、白目を向いて杭に抱き付くように倒れていった。
ナタリーと魔導師が見守る中、アルと戦斧の戦士は、激しい剣戟を続けていた。
周囲に杭が立っている分、長い斧槍を使うアルは、戦いにくそうであった。
戦斧の戦士が口を開く。
「強い! 『黒い剣士』の息子を名乗るだけはあるな!!」
アルは、悪びれた素振りも見せず答える。
「そうかい? ありがとよ!!」
アルは、戦斧の戦士を観察しながら考える。
(・・・強い。周囲に杭が無ければ戦い易いのに・・・)
戦斧の戦士は、アルと少し距離を開けて戦斧を構える。
(・・・よし! コイツで決めるか!!)
アルは、斧槍を持つ右手を後ろに下げて水平に構えると、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。
アルの構えを見た戦斧の戦士が、再び口を開く。
「ほう? 勝負しようってか? ・・・いいだろう。受けてやる!」
(いくぜ! 一の旋!!)
アルの渾身の力を込めた斧槍の一撃が剛腕から放たれる。
戦斧の戦士も雄叫びを上げながら、必殺の一撃を放ってくる。
しかし、アルの攻撃は、いつものそれとは違っていた。
アルの斧槍の矛先は、弧を描きながら下から上へと向かっていく。
戦斧の戦士が驚く。
(なんだ!? この攻撃は?? どこを狙っている??)
アルの斧槍の矛先が戦斧の戦士の戦斧を捕らえる。
激しい金属音が響き渡る。
斧槍の一撃に持っていた戦斧を弾かれ、戦斧の戦士が驚きながら口を開く。
「『撃ち落とし』だと!?」
アルは、驚愕して怯む戦斧の戦士の懐に踏み込みながら、武器を斧槍から海賊剣に持ち替える。
アルは、海賊剣の柄を握ると、腰の鞘から抜きざまに、下から上へ居合斬りで戦斧の戦士に斬り付ける。
アルの海賊剣が、右の脇腹から左の肩口まで、戦斧の戦士の身体を切り裂く。
「ぐぉおおおお!!」
嗚咽を漏らしながら戦斧の戦士は、傷を押さえて両膝を地面に着ける。
荒い息で戦斧の戦士が口を開く。
「まさか、まさか! 撃ち落としを狙って、武器を持ち替えるとは・・・」
アルが軽口を叩く。
「戦場に合わせて武器は変えるものさ。デカくて良いのは、チン●だけだぜ?」
アルは、父である『黒い剣士』ジカイラから教わった言葉を得意気に語ると、ナタリーに笑顔を見せる。
ナディアが水の精霊達に造らせた濃霧は、晴れつつあった。
ルイーゼが見守る中、アレクとルドルフは激しく斬りあっていた。
二人の剣が交わる度に、金属同士がぶつかる甲高い音が響く。
戦いを続けるアレクとルドルフの元に、それぞれの戦闘を終えたユニコーン小隊のメンバーが集まって来る。
ルイーゼがユニコーン小隊のメンバー達に告げる。
「アレクが決着をつけるわ。みんな、手出し無用よ」
トゥルムが戦い続ける二人を見て呟く。
「・・・最後は、この二人か」
ドミトリーも呟く。
「最後が隊長同士の一騎打ちとは・・・。これも仏の導きか」
エルザも呟く。
「アレクが勝つわよ!絶対に!!」
ナディアも呟く。
「二人の意地と誇りの戦いね」
アルも呟く。
「熱くなってるな。二人とも」
ナタリーも呟く。
「アレク!頑張って!!」
ユニコーン小隊のメンバー達が見守る中、アレクはルドルフと戦っていた。
剣を斬り結んだまま、アレクがルドルフを睨む。
(負ける訳にはいかない! ルイーゼのためにも!!)
ルドルフもアレクを睨み返す。
(オレは勝つ! 勝って優勝し、父を探す!!)
二人の騎士の意地と誇りを掛けた戦いが続いていた。
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