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第百五十六話 野営訓練(一)
--天覧試合であった小隊対抗模擬戦トーナメントが終わった二週間後。
バレンシュテット帝国は、夏であった。
アレク達は、士官学校の教室で昼休みを過ごしていた。
椅子にもたれ掛かったアルが、アレクに向かって話し掛ける。
「・・・暑い。・・・暑いなぁ~。アレク」
開かれている教室の窓を眺めながら、アレクが答える。
「もう少し、こう・・・風があれば良いんだけどな・・・」
暑さでノビている二人の元に小隊の女の子達がやって来る。
エルザがアレクとアルに話し掛ける。
「アレク! アル! 良い知らせよ!!」
アルは、だるそうに答える。
「・・・何だよ。良い知らせって?」
エルザが嬉しそうに二人に告げる。
「明日から『野営訓練』をやるんですって!」
アレクが尋ねる。
「・・・何だ? それ??」
ナディアが説明する。
「ここから幌馬車で二時間ほど南に行った海岸で野営する訓練よ」
ルイーゼが続ける。
「・・・簡単に言うと、海に泳ぎに行って、屋外で焼肉やって、二泊する訓練ね!」
アルが喜んで答える。
「おぉ! ホントか!? それ!!」
ナタリーも嬉しそうに口を開く。
「ホントよ~! ・・・ただし、教官達も一緒だから、あまり羽目を外しちゃダメよ」
アレク達は、蒸し風呂のような校舎から出られる事を素直に喜んでいた。
--野営訓練 当日。
士官学校の一学年八個小隊は、それぞれ小隊当たり二台の幌馬車に分乗して海岸を目指す。
ユニコーン小隊は、一台目の幌馬車にアレクとルイーゼ、アルトナタリーが乗り込み、二台目の馬車にエルザとナディア、トゥルムとドミトリーが乗り込む。
一台目の幌馬車は、アレクが御者として手綱を握り、傍らにルイーゼが座る。
アルは、幌馬車の荷台でナタリーに膝枕をして貰いながら、昼寝している。
二台目の幌馬車は、トゥルムが御者として手綱を握り、傍らにドミトリーが座る。
エルザとナディアは、二人とも荷台で昼寝していた。
田園風景が広がる一帯の街道を、士官学校の学生達を乗せた幌馬車の列が海岸に向かって進んで行く。
農作業に励む人々を眺めながら、ルイーゼがアレクに話し掛ける。
「・・・たまには良いわね。こういうの。・・・のんびりしていて」
「そうだな」
「初めてじゃない? 小隊のみんなで旅行なんて」
「はは。一応、訓練という名目だけどね」
のどかな風景を眺めながら、二人は微笑み合う。
アレク達は、二時間ほど幌馬車に揺られ、野営訓練を行う海岸に到着する。
アレクが口を開く。
「着いたね」
風景を見たルイーゼが目を輝かせて歓声を上げる。
「わぁああ」
雲一つ無い快晴の青い空。
広がる澄んだ穏やかな海。
白い砂浜。
顔を撫でる潮風。
そこには、水平線と絶景が広がっていた。
士官学校の学生達は、一度集まってジカイラ達教官から野営訓練について、説明と注意を受けると、小隊ごとに野営と食事の準備に取り掛かる。
既に何回か、野営を行った経験のあるアレク達は、海岸の砂浜に手際よくテントを設営し、幌馬車から荷物を降ろすと、皆、水着に着替えて、海に泳ぎに行く。
アルが歓声を上げながら海に入り、泳ぎ始める。
「ひゃっほーい!!」
アレク、トゥルム、ドミトリーもアルに続いて海に入る。
トゥルムが口を開く。
「ん? どうした? ドミトリーは、泳げないのか??」
ドミトリーが答える。
「・・・拙僧は、泳げんのだ」
ドワーフで山岳地帯出身のドミトリーは、泳げなかった。
トゥルムが続ける。
「泳ぎとは、このようにやるのだ」
トゥルムは鼻と目を水面から出し、手足を身体に沿わせると、器用に尻尾を動かして泳いで見せる。
その姿は傍から見ると、まさに『泳ぐトカゲ』であった。
蜥蜴人で湖沼地帯出身のトゥルムは、水泳は得意であった。
二人のやり取りを見ていたアルが口を開く。
「その泳ぎ方ができるのは、トゥルムだけだって!!」
アレクもアルと共に海で泳ぐ。
穏やかな海は、心地良い冷たさで気持ち良かった。
澄んだ海の底は、砂が波状の模様を描いており、人がほとんど足を踏み入れていない事が判る。
何回か泳ぐと、アレクは海水で急に体が冷えたため、小便がしたくなり砂浜に上がる。
アレクは、乗って来た幌馬車を止めた、近くの雑木林で小用を済ませる。
すると、幌馬車の中から女の子達の声が聞こえてくる。
アレクは、いけない事とは知りつつも、中が気になり、幌の隙間からこっそり幌馬車の中を覗くと、下着姿の小隊の女の子達が水着に着替えている最中であった。
アレクは、女の子達の下着を見る。
(・・・ルイーゼのパンツは、白に水色の横縞。ナタリーは、白にリボン付き。ナディアは黒で、エルザはレース地か・・・)
次に女の子達は、持ってきた水着に着替え始める。
エルザが口を開く。
「夏の海は、コレよ! コレ!!」
そう言うとエルザは、持ってきたビキニの水着を他の女の子達に見せびらかす。
エルザの水着を見たナタリーが驚く。
「凄い! 大胆じゃない!!」
エルザが得意気に答える。
「エルザちゃんの水着姿にアレクもイチコロよ!!」
ナディアが自分の水着を取り出して口を開く。
「フフ。甘いわね! 大人の女はコレよ!!」
ナディアの水着は黒のハイレグで、お腹と背中の部分が大きく空いていた。
ルイーゼが口を開く。
「二人とも。士官学校の指定じゃない水着なんて着て、怒られるわよ!?」
エルザは、ニヤけながら答える。
「いいの! いいの!!」
ルイーゼとナタリーは、真面目に学校指定のスクール水着であった。
アレクは、女の子達の水着を確認すると、海に居るアル達の元に戻る。
やがて、着替えを済ませた小隊の女の子達が海にやって来る。
「「お待たせ~!!」」
そう言うと、女の子達四人とも海に入り、遊び始める。
昼近くまで小一時間、海で遊んだアレク達は、砂浜に上がって昼食を取る。
昼食は、簡単に焼肉であった。
焚火の上に鉄板を敷き、そのうえで肉を焼く。
アルが口を開く。
「いやぁ~、やっぱり夏は、外で焼肉だな!」
アレクが答える。
「皆で外で食べると、一段と美味く感じるよ」
魚が主食のトゥルムは自分で用意した魚を食べ、ベジタリアンのナディアも自分で用意した野菜を食べていた。
アレク達は、昼食を済ませる。
昼食を済ませたトゥルムとドミトリーは、昼食の残りをつまみに、そのまま二人で酒盛りを始める。
アルとナタリーは、泳ぎが苦手なナタリーにアルが泳ぎを教えるため、二人で海に入ると、胸くらいの深さのところで、アルがナタリーの両手を繋いで引きながら泳ぎ方を教え、練習し始める。
エルザとナディアは、『食休み』と言わんばかりに砂浜の上に敷物を敷いて寝転がると、アレクを呼びつける。
エルザが口を開く。
「アーレーク! 日焼け止めのローション塗って!!」
アレクが文句を言う。
「・・・オレが塗るの? 二人で互いに塗れば良いのに・・・」
うつ伏せに寝転がったエルザが答える。
「ユニコーンのグラマラスな獣耳アイドルであるエルザちゃんに『ローションを塗らせて貰う権利』を与えられているのよ! 喜んで! ホラ、もっと喜んで!!」
「・・・判ったよ」
アレクが承諾すると、エルザは笑顔で続ける。
「キレイに塗ってね」
アレクは、エルザからローションの入った小瓶を受け取ると、エルザの背中に塗り始める。
獣人三世であるエルザは、自分で自慢するだけあって肉付きの良いプロポーションは抜群で胸もお尻も大きく、腰はくびれていた。
アレクは両手で、エルザの身体の上部から順に、肩から背中、腰へとローションを塗っていくと、エルザが所々で突然、ピクン、ピクンと仰け反る。
アレクが尋ねる。
「・・・どうしたんだ?」
エルザは、うっとり恍惚とした表情でアレクに答える。
「・・・もぅ、感じちゃう。・・・けど、まだ明るいから、えっちは無理ね」
ナディアが口を開く。
「アレク。次は、私にもローション塗って」
アレクは、言われた通りにナディアにもローションを塗る。
エルフのナディアは、身体つきは華奢であり、線は細いものの、妖精のように美しい身体をしていた。
アレクは両手で、エルザに塗った時と同じように、ナディアの身体の上部から順に、肩から背中、腰へとローションを塗っていく。
ナディアが口を開く。
「アレク」
「んん?」
「ローションを塗る手つきが凄くいやらしい・・・」
ナディアの言葉にアレクは苦笑いする。
二人にローションを塗り終えたアレクを、海に入っているルイーゼが呼ぶ。
「アレク! 一緒に泳ぎましょ!!」
「判った! 行くよ!!」
アレクとルイーゼは、沖の方まで海に入る。
アレクが口を開く。
「ルイーゼ。あまり深いところに行くと危ないぞ」
「このくらいが良いの。一緒に潜りましょ」
「うん」
アレクとルイーゼは、同時に深く息を吸うと海の中に潜る。
海の中に潜ったルイーゼは、アレクの頬に両手を当てるとキスする。
アレクは無意識にキスしてくるルイーゼを両腕で抱いていた。
二人とも海中で呼吸は出来ないので、程なく海面から顔を出す。
海の中で二人は抱き合っていた。
アレクが呟く。
「・・・ルイーゼ」
ルイーゼは、片目を瞑って悪戯っぽくアレクに答える。
「ふふ。良いの。海の中なら、あの二人や他の人から見えないでしょ?」
アスカニアにおいて、海に出掛けて『海水浴』という行為が行われているのは、前近世の文明を持ち、鉄道が整備され、民衆の旅行が一般化し始めたバレンシュテット帝国のみであった。
他の国の文明は中世のレベルであり、海岸地域に住んでいる者達が海で泳ぐことはあったが、その場合は、全裸か使い古した服を着て泳いでいた。
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