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第百五十七話 野営訓練(二)
野営訓練、初日。
一日中、海で泳いだり遊んだりしていたアレク達であったが、陽が傾き始めると、アレクとルイーゼ、アルとナタリーの四人は、砂浜に上がる。
四人が砂浜に上がるのとちょうど同じタイミングで士官学校の教官であるジカイラとヒナがアレク達の様子を見に、見回りにやって来る。
アレクが口を開く。
「ジカイラ中佐! ヒナ大尉!」
ジカイラは、笑顔で四人に答える。
「おう! お前達、楽しくやっているか?」
四人は、声をそろえて答える。
「「はい!」」
ジカイラが笑顔で続ける。
「良し。ケガや事故には気を付けるように・・・、あれ? ヒナ??」
ヒナは、何かを見つけたように、ジカイラの元を離れ、日光浴をしながら寝ているエルザとナディアのほうへ、黒髪のポニーテールを揺らしながら歩いていく。
ヒナは、眠っているエルザとナディアの二人を起こす。
「エルザ! ナディア! 起きなさい!!」
ヒナに呼ばれてエルザとナディアが目覚める。
目を擦りながら寝ぼけまなこでエルザが口を開く。
「何よ~。気持ちよく寝てたのに・・・って!? え??」
目覚めたナディアも驚いて口を開く
「ゲッ!? ヒナ大尉!!」
ヒナがエルザとナディアを叱りつける。
「二人とも! 学校指定の水着を着ないで、そんな肌の露出の多い水着を着たりして! 帝国軍から娼婦に職替えするつもり!?」
エルザとナディアが必死に言い訳する。
「い、いえ、そんな事は・・・」
遠くからエルザとナディアがヒナに叱られている様子を見ながら、アルがアレクに耳打ちする。
「・・・気を付けろ。母さん(ヒナ)は怒らせると父さん(ジカイラ)より怖いんだ」
アルの言葉にアレクは苦笑いしながら答える。
「・・・そうなんだ」
ヒナは、ラインハルトやナナイ、ジカイラと同じ初代ユニコーン小隊に所属して革命戦役を戦い抜いた帝国の英雄の一人である。
革命戦役後、皇帝ラインハルトからの勅命である港湾自治都市群の探索任務を完遂して、士官学校へ転属。
同じ小隊のジカイラと結婚して、アルとその兄弟たちを産んでいた。
ナナイと同じように出産後もプロポーションを崩していないのは、日々の鍛錬の成果であった。
ヒナは、初代ユニコーン小隊に居た頃は、『自分に自信の無い、大人しい女の子』であったが、結婚とアルの出産を契機にすっかり『肝っ玉母さん』になっていた。
ジカイラは、二人を叱り終えて戻ったヒナを連れて、次の小隊の見回りに向かって行った。
アレク達は、夕食の準備を始める。
ルイーゼとナタリーが学校側から指示された夕食のメニューが書かれた羊皮紙を見る。
ルイーゼが呟く。
「ええと・・・。『スープ、またはシチューに干し肉か、干し魚と黒パン』って、書いてあるわ」
ナタリーが口を開く。
「なんか・・・学校の指定したメニューって、随分と質素ね」
アルが口を挟む。
「シチューは、ちょっと勘弁して欲しいな。この暑いのに・・・」
ルイーゼが答える。
「そうよね。・・・スープにしましょ。ね? ナタリー」
ナタリーは、ルイーゼに同意する。
「うん!」
ルイーゼがアレクとアルの方を向いて話し掛ける。
「あと、アレクとアルにお願いがあるんだけど・・・」
アレクが答える。
「んん? 」
ルイーゼが続ける。
「私達、お風呂に入りたいのよ」
ナタリーもルイーゼに続く。
「海水を洗い流したいの」
ルイーゼが続ける。
「二人に準備、お願いできる?」
アレクとアルは、互いに顔を見合わせると、焚火跡の傍で酔って寝ているトゥルムとドミトリーの方を見る。
小隊での力仕事や重量物の運搬はトゥルムやドミトリーが主にやっていた。
しかし、今、その二人は酔って寝てしまっている。
アレクとアルの二人で入浴の準備をやるしかなかった。
アレクは、二人からの申し出を引き受ける。
「判った。二人が夕食を作っている間にアルと準備するよ」
「ありがとう」
アレクとアルは入浴用の機材を用意するため、幌馬車に向かう。
幌馬車の荷台の前でアレクがアルに尋ねる。
「・・・アル。入浴用の機材って、何か知ってるか? オレは全然、判らないんだけど・・・」
アルは得意気に答える。
「まぁな! 浴槽代わりに使う木の樽と、浴場の囲いに使う天幕っと。・・・それと熱源の魔導石湯沸かし器だな。容器に水を入れると、直ぐにお湯が出来る。浴場は、そこの小川の近くに設営しよう!」
アレクが感心する。
「凄い! 良く知ってるな!!」
アルが答える。
「父さんが良く言ってたよ。『革命戦役の時は、外で木の樽の風呂に入った』って」
アレクは素直に感心する。
「そうなんだ」
アレクとアルは、幌馬車の荷台から二人で木の樽などの入浴用機材を小川の近くに降ろし、雑木林の樹木に天幕を張って囲い、浴場を設営していく。
二人作業で小一時間ほど掛ったが、簡単な浴場を設営することが出来た。
アレクとアルは、仲間たちのところへ戻る。
やがて夕食の準備ができ、小隊全員が揃って夕食を取る。
干し肉や干し魚、黒パンをスープに浸して柔らかくしてから食べるという、学校の指定したメニューの食べ方を知っていたのは、ドワーフのドミトリーだけであった。
ドミトリーがぼやく。
「まったく! この小隊で干し肉や黒パンの食べ方を知っていたのが、拙僧だけとは! この小隊は、皆、育ちが良いんだな」
ドミトリーの言葉は図星であった。
アレクとルイーゼは皇宮育ち、アルとナタリーは高所得世帯の育ちであり、エルザ、ナディア、トゥルムも黒パンや干し肉は、士官学校に入るまで縁の無い食べ物であった。
アレク達は夕食を済ませ、食後のひと時をくつろぐ。
周囲は、すっかり陽が落ちて、暗くなっていた。
ルイーゼが口を開く。
「アレクとアルが浴場を設営してくれたから、お風呂に入れるわ。野営時の入浴は、『一人が入浴している間に、もう一人がお湯を用意する』、『何かあっても対応出来るように二人一組で入浴する』のが帝国軍の慣例ね」
ナタリーが答える。
「二人一組なのね」
トゥルムが口を開く。
「まずは隊長から。一番風呂に入ると良い」
アレクが答える。
「それじゃ、遠慮なく行ってくる」
アレクは、設営した浴場に向かう。
アレクは浴場の天幕の囲いの中に入り、月の明かりが周囲を照らす中、入浴し始める。
アレクは裸になって体をお湯で流し、お湯で満たした樽の浴槽に浸かる。
海水に浸かった体にピリピリとお湯が沁みる。
アレクが浴槽から上がって椅子に腰掛けると、ルイーゼが全裸で浴場の天幕に入って来る。
アレクが驚く。
「ルイーゼ!?」
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