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第六話 教官ジカイラ
士官学校の一室、警察の取調室のような殺風景な部屋にアレク達は連れてこられた。
「座ってろ。お前らの担任を呼んでくる」
軍監の言葉にアレク達は素直に従い、椅子に座る。
アレク達は、ルイーゼ、アレク、アル、ナタリーが前列に、エルザ、トゥルム、ドミトリー、ナディアが後列に座った。
席に座ったアルが口を開く。
「アレク! お前、強いじゃないか!」
アレクが答える。
「君こそ。あの飛び蹴りは決まっていたよ」
「まぁな。ドミトリーもやるね。何か習っていたのか?」
ドワーフのドミトリーが答える。
「武術を少し」
ドミトリーの答えに皆が驚く。
「「おぉ!!」」
アレクがルイーゼに尋ねる。
「君も何か習っていたのか? あの体捌きは凄かった」
ルイーゼが照れながら答える。
「アレク。見てたの? ・・・恥ずかしいわ」
ルイーゼは、アレクの母である皇妃のナナイが『目付役 兼 護衛』として差し向けた皇宮のメイドである。
彼女は、アレクの前ではそういう素振りを見せないが、それなりに訓練を受けていた。
ナタリーもルイーゼに話し掛ける。
「いや、ルイーゼ、強いって! 私、腕力事は苦手だから、ルイーゼの影に隠れてたもの!!」
ルイーゼの言葉に獣人のエルザも獣耳を動かしながら、口を開く。
「腕力ねぇ・・・。どんなに腕力があっても、攻撃が当たらなければ意味が無いから」
エルフのナディアもエルザに同意する。
「そうそう」
アレクがナディアに話し掛ける。
「そう言えば、闇の精霊を召喚していたよね? 精霊を召喚できるんだ??」
「そうよ。エルフなら誰でもできるわ」
トゥルクが口を開く。
「皆、私のためにすまない」
アルが笑顔で答える。
「気にすんなよ? 仲間を侮辱されて引き下がったんじゃあ、『ジカイラ・ジュニア』の名が泣くぜ!『伊達と酔狂』こそ、我が信条だ!!」
アルの決めセリフに皆がクスリと笑った時だった。
「なぁ~にが、『伊達と酔狂』だ?」
部屋の扉を開ける音と共に男の声が聞こえる。
黒目黒髪で短めのオールバックに髪型を決めた男がアレク達の部屋に入って来た。
ボディビルダーのような屈強な体躯で帝国軍の軍服を纏い、胸には輝く騎士十字章を付け、腰には装飾の豪華な長い両手剣と、反対側に海賊剣を下げている。
その精悍な顔立ちは、幾多の戦場を戦い抜いてきた『歴戦の戦士』そのものであった。
アルが入ってきた男を見て、席から立ち上がって叫ぶ。
「父さん!?」
士官学校でのアレク達の担任は、教官になった『黒い剣士』ジカイラであった。
ジカイラがアルに告げる。
「アル! 此処ではオレを『教官』と呼べ!」
「はい!」
アレク達の世代では、革命戦役と共に伝説になっている『黒い剣士』ジカイラの登場に、アレク達は目を輝かせる。
アレクが呟く。
「『黒い剣士』ジカイラ。・・・凄い。本物だ」
ジカイラは、アレクの両親と共に革命戦役を戦った英雄であり、麻薬組織を叩き潰した英雄でもあった。
アレクやアルの耳に、後列の席からも呟きが漏れるのが聞こえる。
「・・・凄い」
「あの伝説の・・・!?」
ジカイラはアルを一瞥する。
(此奴がラインハルトの次男か・・・)
ジカイラが皆に告げる。
「お前らを受け持つ教官のジカイラだ。よろしくな。オレのことは『教官』と呼べ!」
「「はい!!」」
ジカイラが続ける。
「・・・というか、初日から乱闘騒ぎとは、元気が良いな! ガキども!! ・・・もっとも、オレや皇帝陛下も初日から乱闘したが」
そう言うとジカイラは笑顔を見せる。
「ところで、一体、何が原因で乱闘になったんだ?」
ジカイラの一番近くに座って居たアレクが、ジカイラに事のいきさつを話す。
仲間を侮辱されたこと、先に殴ってきたのは向こうのグループであることなどを話した。
アレクの話にジカイラは考える素振りを見せる。
「なるほどなぁ・・・。そういう事か」
ジカイラは、アレク達の周囲をぐるりと一周しながら話し始める。
「戦場において、『仲間』は『家族』と言ってもいい存在だ! 砲弾や矢玉が飛び交う血みどろの戦場で、お前達を助けてくれるのも、支えてくれるのも、守ってくれるのも、『仲間』しか居ない! 『仲間』は全力で守れ!! 良いな!?」
「「はい!!」」
ジカイラが続ける。
「入学式は明日。お前達は、まだ士官学校に入学する前だ。従って、今回の事件でお前達に『軍法』は適用されない。よって、軍法会議も営倉入りも無しだ!」
ジカイラの言葉にアレク達は安堵の息を漏らす。
ジカイラがアレクの前に立って口を開く。
「しかし、担任であるオレから罰を与える。・・・グループのリーダーはお前か?」
驚いたアレクが素っ頓狂な声を上げる。
「え?」
間髪を入れずアルが畳み掛ける。
「そうです! 教官! リーダーはこのアレクです!!」
「おい・・・」
アレクは苦笑いしながらアルを見る。
ジカイラはアレクに告げる。
「立て」
「はい」
ジカイラに言われたとおり、アレクは素直に立ち上がる。
ジカイラは、部屋の入口の方を見て、人を呼び付ける。
「入れ!」
ジカイラに呼ばれ、補給処で乱闘した学生達のリーダー格の学生が部屋に入ってくる。
学生はジカイラに促されるまま、アレクの前に立つ。
ジカイラがアレクと学生に告げる。
「グループの頭同士で握手しろ。同期の『学友』は戦場で『戦友』になる。禍根を残すな。これで手打ちだ!」
アレクはジカイラに気迫負けして、渋々、言われた通り握手をするように右手を差し出し、名乗る。
「アレキサンダー・ヘーゲル」
学生もジカイラには逆らえないようで、アレクと同じように右手を差し出し、アレクと握手すると名乗る。
「ルドルフ・ヘーゲル」
二人が口にした名前に、ジカイラを除く全員が驚く。
アルがアレクに尋ねる。
「同じ名字って・・・? お前ら、親戚か何かか??」
ルイーゼが呟く。
「ヘーゲルが二人・・・」
ルドルフは、アレクと握手した手を離すと、アレク達を一瞥し、無言で部屋から立ち去って行った。
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