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少年は真っ白で皺ひとつない着物を着ており、その頭には猫のような耳が生えている。腰のあたりには……二股に分かれた……尻尾?
見つめていると尻尾は左右にゆらゆらと揺れる。猫耳も含めて、作り物とは思えない出来だ。
「……偽物ではないぞ、本物だ」
少年は意地の悪い笑みを浮かべながら言うと、指をぱちんと軽く鳴らした。すると襖がぱたんと開いて、わらわらと大量の二足歩行の猫たちが現れる。
俺はその光景に呆気にとられた。
猫たちは俺を取り囲むと、へたれたスーツをあっという間に脱がせてしまう。そして紺色の甚平を着せにかかった。
「なんだぁ!?」
「大人しくしてくださいませ」
暴れようとすると、毛並みが少し乱れた年嵩らしい猫から窘められる。
「猫が、しゃべっ……」
「我らはあやかしですからな」
年嵩の猫はそう言うと、しっかりと俺の甚平の紐を結んだ。
あやかし……妖怪みたいなものなんだろうか。
到底信じられる話ではないが、目の前で今起きてるんだから……これは現実なのだ。
「さて、準備が済んだな」
妖艶な笑みを浮かべながら少年がこちらに近づいてくる。一歩後ろに下がろうとしたが、猫たちに足をしっかりと掴まれて逃げられない。……足元がもふもふしていて、少し気持ちいいな。いや、そんなことを思っている場合ではないか。
「……お前は、道端に落ちていた。覚えているか?」
金色の瞳にじっと見つめられながら、鈴の鳴るような美しい声で訊ねられる。俺は緊張で、思わずごくりと唾を呑んだ。
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