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お母さんのお仕事が終わるまでがひとりだ。
学校から帰ってもテレビはつまらないから、公園で遊ぶしかない。遊具がブランコだけの公園だ。もうすぐ暗くなる。公園の明かりもついた。
僕以外誰もいないはずなのだけど。
いつの間にか友達がひとり増えた。
女の子だ。
顔はわからない。夕方の公園でよく遊ぶし話すのだけど、なぜか名前と顔を覚えていない。
でも、誰よりも僕のことをわかっていて、話も通じて、一緒にいるのが楽しい。
お母さんが公園まで僕を呼びに来たとき、いつもいなくなっている。さっきまで仲良く話していたのに。僕の学校での話に笑っていてくれたのに。
お母さんにそのことを話すと、少し考える顔をして、仲良くしなさいとだけだった。僕にはなぜか注意されたような気がしていた。
そんなある日。
女の子が現れなくなった。
僕の前から消えたんだ。あれから一年。僕は小学三年生になっていた。身体も大きくなったし、できることも増えた。最近はお母さんが仕事で帰ってくるまでに、夕食や洗濯もしている。
友達と比べてやることが多くて、遊ぶ時間も無くて、話題にいつも取り残されているけど。なんとなく寂しくない。
たぶん、今の友達が僕を馬鹿にしないからだ。
日曜日にはちゃんと約束して、一緒に遊ぶ。
でも時々、毎日のお手伝いが嫌になったり、寂しくなったりするんだ。
そんなとき、ふと、あのときの女の子の面影を探してしまう。
またこの公園でいつの間にか現れて、僕のくだらない話に笑ってくれないかと期待してしまうんだ。
夕方の六時。
そろそろ帰って、夕食の準備をしよう。
――――ばいばい。
女の子の声が聞こえた気がして。
でも、振り向いた先には誰も居ない。
いつもの寂しい公園だ。
きい、とブランコが揺れているようにも見えた。あの子が来ていたのかもしれない。
夕暮れ時。
特に、夜の気配が強まるこのときは、どこか異界にも繋がっているそうだ。
幽霊はいるのかな。
あの子は人間だったのかな。
寂しい気持ちをそっと抱いて。
僕は帰る。
またね、と返さなかった。
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