彼女の砂時計

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 彼女の砂時計 1話【転校生】  俺の名前は如月令翔(きさらぎはると)今年で25歳になる国立感染症研究所で働くワクチン研究者だ。  今日本はあるウイルスの脅威に晒されている。    そいつは数年前に中国から日本を含む世界中に拡散しパンデミックを引き起こしたとあるウィルスの変異種だ。 染力と致死率が非常に高く、専門家や医療従事者はこの変異種をコードネーム『タナトス』の名で呼んでいる。❴『タナトス』とはギリシャ神話に登場する死神の名称❵  変異を繰り返し、従来のワクチンがまったく効かず、医療は事実上崩壊。政府は法案に基づいてようやく首都圏のロックダウンを宣言したが完全に人流を止めることなどできるはずはなく死者、重症者数は月を追うごとに増えるばかり。  そんな『タナトス』への特効薬を開発しようとここ国立感染症研究所では日々研究が行われている。  これはそんな俺がワクチン研究者になるきっかけになった高校時代の話だ。    ――7年前  当時俺は都内の私立高校に通っていた。  あまり人と話すことを好まず。グループの輪に入るのも苦手だったこともありクラスの中での空気のような存在になっていた。  そんな日常をなんとなく過ごし、学年が3年に上がったある日のこと。  その日俺は学校に向けて自転車を全力で走らせていた。  梅雨が明けて間もないこともあり外は額から汗が吹き出るほど猛烈に暑い。しかも新型ウィルス感染のリスクがある中ということもありマスクを外せない息苦しさも加わって余計暑く感じる。  左腕の腕時計に目を通すと登校時刻まで後5分を切っていた。  遅刻するのはもう確定したようなものだ。  「くそ、なんで母さん起こしてくれなかったんだよぉ!」  ブツクサと屁理屈を呟きながら俺は自転車を漕ぐテンポを上げる。  息を切らしてやっとのことで校門前にたどり着くが俺以外に生徒の姿はなく辺りは静まり返っていた。  自転車を降り腕時計に目をやる。既に登校時間を15分もオーバーしていた。  「……やっぱり待ち合わなかったか。まぁ分かってたことだけどな。やれやれ怒られに行くか……」  俺は乗ってきた自転車を駐輪場まで持っていってから重い足取りで昇降口に向かった。  階段を上がり終え、教室へと続く廊下を歩いていく。 廊下にも生徒の姿はなく、ホームルームの声だけが聞こえてくる。  次第にこのままこっそり帰ってしまってもいいんじゃないかとも思ってしまう。影の薄い俺がいなくてもクラスの連中は何も困ることがないからだ。 そんなことを考えながらのらりくりと廊下を歩いてると。  (ん?誰だ?)  自分が入ろうとしている教室の前に茶髪のセミロングヘアーの女子生徒が立っていた。見た目は渋谷や秋葉原に居そうなちょいギャル係女子といった感じ。  (転校生か?)  数秒ボーと眺めていると、その女子生徒と目があった。  しばしの沈黙が流れるが、急にその女子生徒は俺を見るなり笑いを堪える。  「?俺の顔がそんなに可笑しいか?」  俺が首を傾げ訊ねるとその女子生徒は笑いを堪えながら答えた。  「いやだって面白いんだもん令翔のその顔。ふふふふっ」  「喧嘩売ってんのかよ……て、なんで俺の名前知ってんだ」  女子生徒の口から『令翔』という名前が出た瞬      俺の頭の中はハテナでいっぱいになった。そもそもこんなギャルと関わったことなんて俺にはなかったからだ。  「あのさ、どこかで会ったことあったっけ?」 俺が疑問を投げかけると女子生徒はクスクスと笑いながら馴れ馴れしい口調で答えた。  「加護麻衣(かごまい)だよ。小学6年生のとき令翔のクラスメートだった麻衣だよ。忘れちゃった?」  「麻衣、加護麻衣?……え?嘘だろ!?」  ぼんやりとではあるがそんな名前の女の子と一緒に遊んだような記憶はあった。だが、目の前にいる彼女と当時のその娘とではだいぶイメージが変わっていて思わず俺は教室の前だというのに大声で驚いてしまた。  案の定教室の目の前でデカい声を出せば不審に思われる訳で……。教室のドアが開くなり担任教師から「何をしてるんだ?お前は……」と言って睨まれた後「まさかその顔で登校してきたのか?さっさと顔を洗ってこい……」と呆れ顔で言われてしまった。  同時にクラス内から笑いが起こる。  「俺は「へ〜い」とやる気なく返事をしてからホームルームには出席せず男子トイレへと向かった。  トイレの鏡の前に立つとそこには堂々とマジックペンで落書きされた俺の顔が映っていた。  落書きは某スナック菓子のおじさんのものを真似たであろうものが書かれ、両頬にはご丁寧に渦巻き模様まで書き込まれていた。  「うわ!まじかよ。落ちんのか?これ」  幸いにも落書きは水溶性のマジックで書かれていたので水で容易に落とすことができたが笑われた屈辱だけは消えなかった。  「ちくしょぉ……やったのはアイツだな……」  俺にはこのイタズラが誰によるものか考えなくても直ぐにわかった。  「くそ、きっちり訳を聞かせてもらうじゃねぇか」  そして昼休みにその犯人を呼び出し問い詰めることにした。  ――昼休み、中庭にその犯人は悪びれる様子なくのこのこと現れた。  「話って何?おにいちゃん」  「俺の顔に落書きしたのはお前だな?遥」  「うんそうだけど?な〜んだ消しちゃったんだ。写メ撮ってSNSにアップしておけばよかったなぁ〜」  そう犯人の正体は俺の妹。本名は如月遥(きさらぎはるか)。俺より2学下の高校1年生。  明るく陽気な性格で誰とでも仲良くなれる長所があるのだが、大のイタズラ好きであり、俺の大事なモノ(あまり大きい声では言えない代物)を家のどこかに隠したり、俺のカバンにゴキブリのオモチャを忍ばせて驚く反応を楽しんだりする悪癖を持っている。まぁ、イタズラをされれば困るし、少しイラッとくることもあるがどれも許せる範疇(はんちゅう)のものではあるのだが……。 「サラッと陰湿めいたことを企むんじゃない。たくっ……」  俺はため息を吐きジト目で言い返すが、遥は反省するどころか偉そうに深くベンチに腰掛け購買で買ったパンを頬張りながら言い返してきた。  「だってそれは寝坊するおにいひゃんが悪いんれでひょ?何回下で呼んでも起きてこなかったんだひひょうがないんじゃない?……もぐもぐ……」  見ているとなんとも腹立たしい。  「だからって人の顔に落書きするのもどうかと思うぞ?」  「え〜だって面白いんだもん!」  「『面白いんだもん!』じゃねぇだろ……」  「いいじゃん!いいじゃん!」  「断る」  「むぅ、ケチ」  「ケチもくそもあるか!」  「わーい怒った怒ったぁ」  遥からしたら俺のこういうリアクションが面白いのだろう。ノリノリで茶化してくる。  傍から見れば無邪気で可愛らしく写るかもしれないが、こっちとしては鬱陶しいかぎりだ。  俺はため息を吐いてからスマホのデジタル時計を見る。  まだ昼休みが終わるまでには少し時間がある。俺はとりあえず暇つぶしにと遥に麻衣が転校生として自分のクラスに来たことを話した。  「え!?なにそれホントなの!?」  遥は目を丸くして驚く。  「ああホントだぞ」  俺はボソッとそう答えるがどうも遥は信じていないようで「嘘くさっ」と言いたげな目つきを向ける。どうやら信用していないらしい。  「ホントかなぁ……おにいちゃんの話ってイマイチ信じられないんだよね」  「あのなぁ……まぁいい、気になるなら帰りのホームルーム終わった後に俺のクラスに来い。そうすりゃ分かる」  「ふーん。りょーかい」  本当に分かっているのか疑わしい。  「ちゃんと来いよ?」  「わかってるよぉ。それじゃ」  遥はそう言うとパックの牛乳をグッと飲み干して足早に中庭を出ていった。同時に昼休み終了5分前を告げるチャイムが鳴る。  「やっば!急ご!」  嵐が過ぎ去ったような安堵感に浸るまもなく俺も足早に中庭を後にした。  「へー令翔の顔に落書きしたのはやっぱり遥ちゃんだったんだ。遥ちゃんイタズラ好きだもんね」  「ああ、ホント迷惑極まりない」  「あははは、遥ちゃんらしいね」  「笑いごとじゃねえって……」  ホームルーム後俺は麻衣と話をしながら遥が来るのを待っていた。  他の生徒はそれぞれ部活に行く準備をしたり隣のクラスから来た友達と談笑している。  なかには転校生である麻衣と話をしている俺を見ながら『陰キャラのくせにリア充のマネごとかよ』と妬ましい目で見ている奴もいる。  「でも遥ちゃんってそれも含めてかわいいとおもうんだよね。小動物みたいっていうか。令翔もそう思わない?」  「それはないな。俺からしたらあいつは小動物というより通り魔だ」  「例えが酷いよ令翔(笑)」  確かに見た目は麻衣が言うように小動物に見えなくもないが、俺からしたら遥は空きあらばイタズラをしてくる通り魔のような存在だ。そこに小動物らしい可愛さなどない。  そんなくだらない会話をしていると「失礼しまーす!」と底抜けに明るい声で遥が教室に入ってきた。  遥はキョロキョロと教室を見渡し麻衣の姿を見つけると、飼い主と再会した犬のように机に駆け寄って「麻衣ちゃん、麻衣ちゃんだよね!」と興奮した面持ちで喜びを露わにする。  麻衣は少し困ったようなような顔をしながらも「うん、そうだよ。元気だった?」と言って笑顔を見せる。  遥はよく麻衣に遊んでもらっていたのでさぞかし再会出来て嬉しかったのだろう。自然と2人はガールズトークを始める。  俺は「ホント仲良しだなこいつら……」と思いながらその様子を眺めていた。  その後、別れ際際麻衣から明後日3人で集まって遊ばないかという提案を受けた。プランは2つ。  1つ目は遊園地に行って遊ぶ。  2つ目は令翔(おれ)の家でゲーム三昧して過ごすというものだ。  話し合いの結果新型ウィルスのことも考えて当日は俺の家でゲームをして過ごすことに決まった。  「それじゃあな」  「お菓子とか一杯用意して待ってるよ」  俺と遥は駅の改札前で麻衣に手を振る。  「うん。それじゃまたね」  麻衣はそう言って人混みの中に消え、俺と遥も明後日のことに期待を膨らませ駅を後にした。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        彼女の砂時計  #1【転校生】  俺の名前は如月令翔(きさらぎはると)今年で25歳になるワクチン研究者だ。  今日本はあるウイルスの脅威に晒されている。    そいつは数年前に中国から日本を含む世界中にパンデミックを引き起こしたとあるウィルスの変異種だ。 染力と致死率が非常に高く、俺たちワクチン研究者や医療従事者はこの変異種をコードネーム『タナトス』の名で呼んでいる。(『タナトス』とはギリシャ神話に登場する死神の名称)  変異を繰り返し、従来のワクチンがまったく効かず、医療は事実上崩壊。政府は法案に基づいてようやく首都圏のロックダウンを宣言したが完全に人流を止めることなどできるはずはなく死者、重症者数は月を追うごとに増えるばかり。  そんな『タナトス』への特効薬を開発しようとここ国立感染症研究所では日々研究が行われている。俺もここの研究者としてワクチン開発に携わっているわけだが始めから研究者になろうと思っていたわけじゃない。  高校まで勉強は大嫌いだったし、特別したいことも、なりたいものもなかった。そんな俺が研究者になろうと思ったきっかけは大切な親友との誓の為だ。  その親友とは幼馴染であり、お互いによき理解者だった。  研究室には当時の写真と親友から俺に宛てた手紙が置いてある。  正直このことを話すのは辛い……けど、この話を聞いて少しでもウィルスへの理解と危機感を持ってくれたらと思う。    ――7年前  当時俺は都内の私立高校に通っていた。  あまり人と話すことを好まず。グループの輪に入るのも苦手だったこともありクラスの中での空気のような存在になっていた。  そんな日常をなんとなく過ごし、学年が3年に上がったある日のこと。  その日俺は学校に向けて自転車を全力で走らせていた。  梅雨が明けて間もないこともあり外は額から汗が吹き出るほど猛烈に暑い。しかも新型ウィルス感染のリスクがある中ということもありマスクを外せない息苦しさも加わって余計暑く感じる。  左腕の腕時計に目を通すと登校時刻まで後5分を切っていた。  遅刻するのはもう確定したようなものだ。  「くそ、なんで母さん起こしてくれなかったんだよぉ!」  ブツクサと屁理屈を呟きながら俺は自転車を漕ぐテンポを上げる。  息を切らしてやっとのことで校門前にたどり着くが俺以外に生徒の姿はなく辺りは静まり返っていた。  自転車を降り腕時計に目をやる。既に登校時間を15分もオーバーしていた。  「……やっぱり待ち合わなかったか。まぁ分かってたことだけどな。やれやれ怒られに行くか……」  俺は乗ってきた自転車を駐輪場まで持っていってから重い足取りで昇降口に向かった。  階段を上がり終え、教室へと続く廊下を歩いていく。 廊下にも生徒の姿はなく、ホームルームの声だけが聞こえてくる。  次第にこのままこっそり帰ってしまってもいいんじゃないかとも思ってしまう。影の薄い俺がいなくてもクラスの連中は何も困ることがないからだ。 そんなことを考えながらのらりくりと廊下を歩いてると。  (ん?誰だ?)  自分が入ろうとしている教室の前に茶髪のセミロングヘアーの女子生徒が立っていた。見た目は渋谷や秋葉原に居そうなちょいギャル係女子といった感じ。  (転校生か?)  数秒ボーと眺めていると、その女子生徒と目があった。  しばしの沈黙が流れるが、急にその女子生徒は俺を見るなり笑いを堪える。  「?俺の顔がそんなに可笑しいか?」  俺が首を傾げ訊ねるとその女子生徒は笑いを堪えながら答えた。  「いやだって面白いんだもん令翔のその顔。ふふふふっ」  「喧嘩売ってんのかよ……て、なんで俺の名前知ってんだ」  女子生徒の口から『令翔』という名前が出た瞬      俺の頭の中はハテナでいっぱいになった。そもそもこんなギャルと関わったことなんて俺にはなかったからだ。  「あのさ、どこかで会ったことあったっけ?」 俺が疑問を投げかけると女子生徒はクスクスと笑いながら馴れ馴れしい口調で答えた。  「加護麻衣(かごまい)だよ。小学6年生のとき令翔のクラスメートだった麻衣だよ。忘れちゃった?」  「麻衣、加護麻衣?……え?嘘だろ!?」  ぼんやりとではあるがそんな名前の女の子と一緒に遊んだような記憶はあった。だが、目の前にいる彼女と当時のその娘とではだいぶイメージが変わっていて思わず俺は教室の前だというのに大声で驚いてしまた。  案の定教室の目の前でデカい声を出せば不審に思われる訳で……。教室のドアが開くなり担任教師から「何をしてるんだ?お前は……」と言って睨まれた後「まさかその顔で登校してきたのか?さっさと顔を洗ってこい……」と呆れ顔で言われてしまった。  同時にクラス内から笑いが起こる。  「俺は「へ〜い」とやる気なく返事をしてからホームルームには出席せず男子トイレへと向かった。  トイレの鏡の前に立つとそこには堂々とマジックペンで落書きされた俺の顔が映っていた。  落書きは某スナック菓子のおじさんのものを真似たであろうものが書かれ、両頬にはご丁寧に渦巻き模様まで書き込まれていた。  「うわ!まじかよ。落ちんのか?これ」  幸いにも落書きは水溶性のマジックで書かれていたので水で容易に落とすことができたが笑われた屈辱だけは消えなかった。  「ちくしょぉ……やったのはアイツだな……」  俺にはこのイタズラが誰によるものか考えなくても直ぐにわかった。  「くそ、きっちり訳を聞かせてもらうじゃねぇか」  そして昼休みにその犯人を呼び出し問い詰めることにした。  ――昼休み、中庭にその犯人は悪びれる様子なくのこのこと現れた。  「話って何?おにいちゃん」  「俺の顔に落書きしたのはお前だな?遥」  「うんそうだけど?な〜んだ消しちゃったんだ。写メ撮ってSNSにアップしておけばよかったなぁ〜」  そう犯人の正体は俺の妹。本名は如月遥(きさらぎはるか)。俺より2学下の高校1年生。  明るく陽気な性格で誰とでも仲良くなれる長所があるのだが、大のイタズラ好きであり、俺の大事なモノ(あまり大きい声では言えない代物)を家のどこかに隠したり、俺のカバンにゴキブリのオモチャを忍ばせて驚く反応を楽しんだりする悪癖を持っている。まぁ、イタズラをされれば困るし、少しイラッとくることもあるがどれも許せる範疇(はんちゅう)のものではあるのだが……。 「サラッと陰湿めいたことを企むんじゃない。たくっ……」  俺はため息を吐きジト目で言い返すが、遥は反省するどころか偉そうに深くベンチに腰掛け購買で買ったパンを頬張りながら言い返してきた。  「だってそれは寝坊するおにいひゃんが悪いんれでひょ?何回下で呼んでも起きてこなかったんだひひょうがないんじゃない?……もぐもぐ……」  見ているとなんとも腹立たしい。  「だからって人の顔に落書きするのもどうかと思うぞ?」  「え〜だって面白いんだもん!」  「『面白いんだもん!』じゃねぇだろ……」  「いいじゃん!いいじゃん!」  「断る」  「むぅ、ケチ」  「ケチもくそもあるか!」  「わーい怒った怒ったぁ」  遥からしたら俺のこういうリアクションが面白いのだろう。ノリノリで茶化してくる。  傍から見れば無邪気で可愛らしく写るかもしれないが、こっちとしては鬱陶しいかぎりだ。  俺はため息を吐いてからスマホのデジタル時計を見る。  まだ昼休みが終わるまでには少し時間がある。俺はとりあえず暇つぶしにと遥に麻衣が転校生として自分のクラスに来たことを話した。  「え!?なにそれホントなの!?」  遥は目を丸くして驚く。  「ああホントだぞ」  俺はボソッとそう答えるがどうも遥は信じていないようで「嘘くさっ」と言いたげな目つきを向ける。どうやら信用していないらしい。  「ホントかなぁ……おにいちゃんの話ってイマイチ信じられないんだよね」  「あのなぁ……まぁいい、気になるなら帰りのホームルーム終わった後に俺のクラスに来い。そうすりゃ分かる」  「ふーん。りょーかい」  本当に分かっているのか疑わしい。  「ちゃんと来いよ?」  「わかってるよぉ。それじゃ」  遥はそう言うとパックの牛乳をグッと飲み干して足早に中庭を出ていった。同時に昼休み終了5分前を告げるチャイムが鳴る。  「やっば!急ご!」  嵐が過ぎ去ったような安堵感に浸るまもなく俺も足早に中庭を後にした。  「へー令翔の顔に落書きしたのはやっぱり遥ちゃんだったんだ。遥ちゃんイタズラ好きだもんね」  「ああ、ホント迷惑極まりない」  「あははは、遥ちゃんらしいね」  「笑いごとじゃねえって……」  ホームルーム後俺は麻衣と話をしながら遥が来るのを待っていた。  他の生徒はそれぞれ部活に行く準備をしたり隣のクラスから来た友達と談笑している。  なかには転校生である麻衣と話をしている俺を見ながら『陰キャラのくせにリア充のマネごとかよ』と妬ましい目で見ている奴もいる。  「でも遥ちゃんってそれも含めてかわいいとおもうんだよね。小動物みたいっていうか。令翔もそう思わない?」  「それはないな。俺からしたらあいつは小動物というより通り魔だ」  「例えが酷いよ令翔(笑)」  確かに見た目は麻衣が言うように小動物に見えなくもないが、俺からしたら遥は空きあらばイタズラをしてくる通り魔のような存在だ。そこに小動物らしい可愛さなどない。  そんなくだらない会話をしていると「失礼しまーす!」と底抜けに明るい声で遥が教室に入ってきた。  遥はキョロキョロと教室を見渡し麻衣の姿を見つけると、飼い主と再会した犬のように机に駆け寄って「麻衣ちゃん、麻衣ちゃんだよね!」と興奮した面持ちで喜びを露わにする。  麻衣は少し困ったようなような顔をしながらも「うん、そうだよ。元気だった?」と言って笑顔だを見せる。  遥はよく麻衣に遊んでもらっていたのでさぞかし再会出来て嬉しかったのだろう。自然と2人は ガールズトークを始める。  俺は「ホント仲良しだなこいつら……」と思いながらその様子を眺めていた。  その後、別れ際際麻衣から明後日3人で集まって遊ばないかという提案を受けた。プランは2つ。  1つ目は遊園地に行って遊ぶ。  2つ目は令翔(おれ)の家でゲーム三昧して過ごすというものだ。  話し合いの結果新型ウィルスのことも考えて当日は俺の家でゲームをして過ごすことに決まった。  「それじゃあな」  「お菓子とか一杯用意して待ってるよ」  俺と遥は駅の改札前で麻衣に手を振る。  「うん。それじゃまたね」  麻衣はそう言って人混みの中に消え、俺と遥も明後日のことに期待を膨らませ駅を後にした。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
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