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もう最後の手段を使ってしまおうか。
私は、ついにその考えに至る。
東京に面接に行った数也は、翌日の夜にはうちに帰ってきた。
やはり特に何も変わっていないように見えた。
今、彼はお風呂に入っている。
やるなら今がチャンスだ。
私はそれに目を向ける。
そこには、いつものように無造作に置かれた彼のスマートフォンがあった。
彼の情報が詰まった、小さな電子機器。
「何があっても彼氏のスマホだけは見ちゃだめだよ。あれはパンドラの箱なの。それを開けても、誰も幸せになれないんだからね」
昔、女友達からそう言われたことがあった。
そんなことするわけない、と私は言い返した記憶がある。
……そんなことするわけない、と思ってたのにな。
私は数也のスマホに手を伸ばす。
彼を信じたい。
そんな気持ちでパスワードを入力する。
1192。
――しかし、画面のロックは解除されなかった。
「あれ?」
あ、そうか。
最新の鎌倉幕府の成立年に変えたのかも。
今度は1185を入力する。
しかし、またロックは解除されなかった。
え、もしかしてパスワード変えてる?
私がそこに思い至った時。
彼が浴室から出てくる音が聞こえて、慌ててスマホを元の位置に戻した。
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