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 私は、震えていた。  握る手に力が入り、持っている紙に皺が寄る。 「……なにそれ」    バカだ。  本当に。  私は本当にバカだ。   「なによ、それ」  そうだった。  彼はそう言う男だった。    人との関わりが苦手で、それでも漫研に入ってしまうくらい漫画が好きで。  パスワードに設定してしまうくらい鎌倉幕府が好きで。  寒がりのくせに降ってほしいと願うくらい雪が好きで。  自分のことを全部打ち明けてしまうくらい、私のことが好きで。  彼はいつでも自分の好きなものに対して真っ直ぐだった。 「……ごめんなさい」  そして彼のそんなところが、私は大好きだったのに。 「え、嫌だった?」 「ちがう。ちがうの」  彼のことを信じきれなかった。  そんな罪悪感で圧し潰されそうだった。  できるなら今すぐこの家から飛び出したい。  でも、そんなことしても何にもならないことも分かっていた。  それなら私にできることは――。 「ありがとう、数也。大好き」  何も隠さない。  私の心を真っ直ぐに送る。  それを受け取った彼は。  へへへ、と嬉しそうに笑った。   
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