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吾輩は猫である。名前はまだ無い。
なんて、気障な事を言ってみる。
くあぁ、と欠伸が零れる。窓硝子越しに、オレンジみたいな夕陽が、部屋の中の全部を蜂蜜色に染める。
今日は、金曜日。そろそろ彼女が帰ってくる時間だ。
ぐん、と伸びをして、リビングのドアを頭で押す。ペタペタと足の裏から可愛らしい音が鳴る事には、未だ慣れない。
ちょこん、と玄関マットの上に鎮座した吾輩は、銀色の鍵がぐるんと回るその瞬間をただじっと待っている。
タンタンッと階段を駆け上る音、ファスナーが開く音、そして金属が触れ合う音。
ガチャン、と鍵が差し込まれる音がして、待ち望んだ時が訪れる。
「ただいま~!」
「おかえり」
満面の笑みで、その前髪を揺らしながらドアを開いたのは、最愛の彼女。
水色のチェックのプリーツスカートを揺らして、ローファーを脱ぐ。
めっきり寒くなって来たこの頃は、紺色のセーターに身を包んでいるけれど、そのスカートの長さは夏と変わらず……ん、また短くなったか?
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