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★グリフィス
ファウストから直接、サバルドの要人を救出する作戦がある事を聞いた。ただ、グリフィスは不参加だ。当然と言えば当然だが、煮え切らない思いもある。
「悪いな、グリフィス」
「いえ、仕方がありません。俺の方こそ気を遣わせてすみません、ファウスト様」
静かに酒を飲みながらの会話は久しぶりだ。グリフィスも手元のグラスを僅かに傾けた。
「実際の所、あの国はどうなってるんでしょうか?」
「指導者のマジード将軍が処刑されたことは事実だ。だがそれよりも前にラティーフ殿下へ刺客が放たれていたのだろう。数は分からないが……まぁ、第一師団ほど人が入っているとも思えないしな」
「まぁ、それはそうでしょうな」
数百入りこんでいれば多い方だろう。このくらいの数なら簡単に制圧できる。まぁ、人質が生きているかは保証できないが。そういう細かい事ならランバートかアシュレーが得意だろうし。
だが、ファウストの表情は晴れないままだ。何がそんなの気がかりなのか、気になる所だ。
「何かあるんすか?」
「……ラティーフ殿下には、思った以上に味方が少ないかもしれない」
「ん?」
「カシムという人物は、本当にラティーフ殿下の味方なのか」
「……」
それについて、グリフィスは答えを持たないだろう。おそらく、だが。
「その、カシムという奴のちゃんとした名は聞いてるんで?」
「あぁ、報告にあったな。確か、カシム・バウワーブだ」
「バウワーブ(門番)?」
自分が知っている事で何かあれば、そう思って聞いたのだが……思い当たらない名だ。これでも一応、父の側にいた側近の名前くらいは覚えているのだが。
いや、そもそも父の側近達が今もそれなりのポジションにいるなんて事はないだろう。相当生きにくいだろうし、なんなら名を変えている可能性も大いにある。
……名を、変えている。
「どうした?」
「……一つ、お願いがあります」
「なんだ?」
「ファウスト様達が人質救出に出ている間、ラティーフ殿下とリッツの護衛に俺も出たいのですが」
ジャミルがいて、しかもベルギウス家にいれば問題はないだろう。そこに何者かが侵入してくるとは考えていない。だが、ラティーフに確認したい事も出てきた。もし見誤れば、それこそラティーフの命はないだろう。サバルドという国に、王子がいなくなる可能性がある。
戻りたいとは思わない。だが、父が愛した国でもある。ならば、せめて争いの少ない国であるように。人が笑っていられる国であるように。そう、願うくらいには思うのだ。
ファウストは考えていたが、一言「シウスに伝えてみる」と言ってくれた。
そして、既に身バレしていることもあってこれは許される事となったのである。
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