怪人ニシキの相組逢瀬

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《ぴろん》  帰宅するとゆるっとしたシャツと短パンに着替えて自室のベッドから彼氏にSNSを送信する。 『前言ってたケバい先輩の話なんだけど』  首を傾げる犬のスタンプが返ってきた。 『お目当てのひととデートする話になってるんだけどね。相手から私とアンタも来るなら行ってもいいって言われたらしいのよね』 『それはアレか。ダブルデートってヤツになるのか』 『察しが良くて助かるわ。アンタまで巻き込むのは本当に不本意なんだけど、私はアイツらをさっさとくっつけて心身ともに自由の身になりたいの』  この上なく偽らざる本音だった。こんなデートの誘い方あるか?と自分でも思うニノマエだったが、実際にあるのである。 『だから悪いんだけどちょっと茶番に付き合って貰えないかな。ちなみに遊園地で入園料は先輩持ちよ』 『フミも苦労してんだな…俺は構わないよ。それに』  ほんの少し間があった。 『最初から最後まで団体行動ってわけでもないだろうし?』  自分の顔が赤くなったのが血のめぐりでわかった。コイツはほんとこういうこと割とさらっと言ってくるのよね。つい嫌味のひとつも言いたくなってしまう。 『ありがと。でもアンタのそういう妙に物分かりの良いとこ好きじゃないわ』  反射的に送信してから即座にもうひとつ。 『まって』  首を傾げる犬のスタンプが返ってきた。  そう、そういうところが好きじゃないわけじゃない。嫌いなわけじゃない。 『ごめん、そうじゃない。そういう【物分かりの良いアンタ】に簡単に際限なく甘える自分が嫌いなの』  これが正確な事実だ。きっと。 『だから、こう、良かれと思うならわがままや交換条件のひとつも出してちょうだい』  わかっている。そんなことを言いつつこれすらも私の甘えたわがままなんだって。 『交換条件…って言われると悩むなそれ』  考え込む犬のスタンプが押される。 『難しく考えなくても普通に私に対して要望があれば言えばいいのよ』 『それならわがまま、になるかどうかはわからないけど。前のデートの時の髪型すげー可愛かったからまたあんな感じで頼む。それでいいかな』 『ずいぶん謙虚だけど。オッケーそのくらいのリクエストいくらでもいけるわ。細かい日時はまた連絡するから当日を楽しみにしてて。それじゃ』  すっとアプリを落としたニノマエはぷるぷると震えていた。 「すげー可愛かった」  まあそのデートの時も言われたけど。 「すげー可愛かった」  なのでその時参考にした雑誌や自撮りは残してあるけど。 「すげー可愛かったかあ」  クッションに顔を押し付けて奇声を上げる乙女だった。
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