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ごつごつした手で、できる限り優しく彼女の頬を愛撫する。
「花火をしようって約束だっただろ。買ってきたんだ。一緒にやろう」
ビニール袋から一束ぽっちの線香花火を取り出した。
「これだけしかないけど、いいよな」
蝋燭は手近にあったがわざわざつける気にもなれなくて、ポケットから取り出したライターで直接火をつけた。
美佳と付き合い始めたのも花火大会のときだった。高校一年の夏。僕から誘って、大玉の残滓が残っている間に告白した。
「なんて言った?」
それが答えだった。落ち着いた、望郷感を思い起こさせるような音楽とは裏腹、群衆のざわめきに紛れて彼女は笑う。
息を止め、彼女を見つめなおすと悪戯っぽく美佳は言った。線香花火の方が私は好きだ、と。折角浴衣なんだし、と付け加えると、僕の手を引いてコンビニに向かう。
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