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「ぽて、」
一つ目の火球が地面に落ちた。
「線香花火って毎回違う散り方するから、まことをかしって感じだよね」
ちょっと気取った古典教師の物まねをして、僕らは爆笑した。
真っ赤な火球が細い紐を少しずつ食っていきながら、だんだん大きくなっていく。途中で細かい火花を散らしていく。
「ぽて、」
線香花火が落ちるとき、彼女は決まってそう言った。悲しそうな顔で、いつもよりちょっと高い声で。それに倣って僕もつぶやく。スタッカートでころころと。
「ぽて、」
極力動かさないようにしているし、風もないのにすぐ落ちるやつもいた。火球が落ちる度に、僕らは束から線香花火を一本ずつ引き抜いて、間に立った蝋燭(ろうそく)から火を取る。
「花火、きれいだったね」
「まあ、ね」
「最後のとか、すごかったよね」
「そうだねぇ」
「出店もよかったよね」
「たこ焼きめちゃくちゃおいしかった」
ちょっと鼻息を鳴らしながら顔を輝かせた。
「ぽて、」
急に動いたから火球が落ちた。あ、と言いながらお決まりの文句を言う。でもね、本当によかったよ、と言葉を継ぐ彼女の笑顔はいつだって心を惹く。
地味な見た目でも、男女問わず彼女のファンクラブがあるのは、きっと彼女は知らないことだろう。
小さいものをつかんでいると、去年からプライベートではめている指輪が指に当たるのが慣れなかった。外してこようかとも思案したが、悩みに悩んだ結果今日はつけてきた。
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