線香花火

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 「ぽて、」  一つ目の火球が地面に落ちた。  「線香花火って毎回違う散り方するから、まことをかしって感じだよね」  ちょっと気取った古典教師の物まねをして、僕らは爆笑した。  真っ赤な火球が細い紐を少しずつ食っていきながら、だんだん大きくなっていく。途中で細かい火花を散らしていく。  「ぽて、」  線香花火が落ちるとき、彼女は決まってそう言った。悲しそうな顔で、いつもよりちょっと高い声で。それに倣って僕もつぶやく。スタッカートでころころと。  「ぽて、」  極力動かさないようにしているし、風もないのにすぐ落ちるやつもいた。火球が落ちる度に、僕らは束から線香花火を一本ずつ引き抜いて、間に立った蝋燭(ろうそく)から火を取る。  「花火、きれいだったね」  「まあ、ね」  「最後のとか、すごかったよね」  「そうだねぇ」  「出店もよかったよね」  「たこ焼きめちゃくちゃおいしかった」  ちょっと鼻息を鳴らしながら顔を輝かせた。  「ぽて、」  急に動いたから火球が落ちた。あ、と言いながらお決まりの文句を言う。でもね、本当によかったよ、と言葉を継ぐ彼女の笑顔はいつだって心を惹く。  地味な見た目でも、男女問わず彼女のファンクラブがあるのは、きっと彼女は知らないことだろう。  小さいものをつかんでいると、去年からプライベートではめている指輪が指に当たるのが慣れなかった。外してこようかとも思案したが、悩みに悩んだ結果今日はつけてきた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加