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優子
冬の或る日曜日、和也は優子とデートをする約束をしていたのに寝坊してしまって焦りに焦って朝食を急いで取っていると、便意を催した。
「嗚呼、もう時間がないっていうのに!」和也は慌てて残りのパンを口の中に押し込むと、トイレに駆け込んだ。
彼是5分くらい経って、「はあ、すっきりした。あっ、こんなのんびりしてる場合じゃない!」
和也は尻を拭うのもそこそこにトイレを出て寝巻から外出着に着替え、お気に入りのパナマをかぶって大急ぎで出かけた。
待ち合わせ場所は公園の噴水のある所だ。その公園の中に走りながら入って来た和也は、噴水の周囲に設置してあるベンチの一つに腕組みしながら腰かけている優子が視界に入った。プンプンしているのが遠目にも分かる。
優子の前まで来た和也は、パナマをアミダにかぶり直すと、息を弾ませて言った。
「ごめん!ちょっと遅れちゃった!」
「ちょっとどころじゃないわ!10分よ!」
「ああ、10分か、寒い中、大分待たせちゃってほんとにごめん!」和也は掌を合わせた上、頭を下げてまるで神仏を拝むように謝る。それなのに優子は、「うわあ!くさ~い!やだー!」と鼻を摘まんだ。
「く、くさい?」と和也が尋ねる間に優子は腰を上げ、「もう知らない!」とにべもなく言って和也からすたすたと離れて行った。
「ね、ねえ!ちょっと待ってよ!」と和也が焦って呼びかけながら慌てて近づくと、優子は振り向きざま、「来るな!くせえんだ!遅れた上にサイテー!」とけんもほろろに怒鳴り、愕然として棒立ちになった和也を残して足早に立ち去ってしまった。
「あーあ、そういやあ、けつめぞがぐちゃぐちゃしてる」尻に当てた手を嗅いで見る。「うわあ、くせー!必死に走ってきたから気づかなかったんだ」と和也は今更分かってぐにゃりと頭を垂れた。汗と糞が交じり合って妙に鼻を突く。
「取り返しのつかないことになってしまった。もう許してくれないだろう」と和也は優子に対して希望を失った。何しろ優子は不潔なことが何よりも大嫌いなのだ。
とぼとぼと歩く和也。そこへ向こうから浮浪者と思しき男が歩いて来た。彼はぼろぼろのコートを着ているが、コートの裾から脛と素足が覗いている。この寒いのに長ズボンも靴下も靴すら履いていないのだ。
和也は足音に気づいて項垂れていた顔を上げると、男が立ち止まって変態男宜しくコートの前見頃を開いて広げた。
その途端、「うぎゃー!」と和也は悲鳴を上げ、踵を返して公園の出口に向かって駆けだした。男は只の変態ではなくショタコン変態なのだから堪らない。和也はグロテスクな一物を目の当たりにしてしまったのだ。
公園からちょっと離れたところまで来て駆けるのを止めた和也は、ハーハー言いながら呟いた。「嗚呼、悍ましい。踏んだり蹴ったりだ」
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