星の緑の花の歌

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星の緑の花の歌

 僕たちの周りには、ただひたすらに緑が広がっていた。 「なあ、田島よお、俺たちはこのまま歩いて、歩きまくって、無事に地球に帰れると思うか?」  僕の前を歩く、山本先輩は振り返らずに言った。なかばひとりごとのように。防護服越しのその声はくぐもって聞こえた。 「さあ? そもそもどっちに何があるのかもわからないですし」  僕は自信なくそう答えるしかできなかった。  そう、僕たちは遭難者だった。それも、地球ではない、遠くの、とある惑星にたった二人取り残された、かなり絶望的な状況だった。  僕たちの周りにあるのは、ひたすらに繁茂したツル植物の森だった。元々この星にはなかったものだ。テラフォーミングのために人の手によって持ち込まれ、ごく短期間で星を覆い尽くすほどに成長した、たった一株の生命体だ。 「とりあえず、俺たちは見晴らしのいいところに出るんだ。救助の宇宙船が来たときに、見つかりやすいように」  山本先輩はきょろきょろあたりを見回しながら言った。その視線の先を僕もなんとなく追ってみたが、やはりどこまでも同じ景色、すなわち、緑の太いツルが絡み合いながら下から上に伸びている光景が広がっているだけだった。  ツルの束どうしの間隔はわりと余裕があり、上から差し込んでくる光で、森全体は明るかった。ただ、地球の森と違って、鳥や虫といった、生き物の気配はまったくなく、土もなかった。かわりに、枯れたツルが下に落ちて、干からびて、幾重にも重なって、地面のようなものを作っていた。僕たちはその上を歩いているというわけだった。
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