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「でも、ここなら酸素中毒になる心配はいないですよ。とりあえず、ここでじっといていて、救助が来るのを待ちましょう」
「そうだな、それしかない」
僕たちはうなずきあい、それぞれ適当に、近くの花の根元に腰掛けた。幻の少女は、そんな僕のすぐ横の地面に座った。
それから、山本先輩はずっと携えていたタブレットと、通信ユニットをいじりはじめた。
「先輩、それ壊れてるんじゃ?」
「そうだよ。だから、直すんだ」
「直るんですか?」
「わからん。だが、他にやることもないしな」
「はあ……」
僕は近くでその音を聞いていることしかできなかった。猛烈に手持ち無沙汰で、暇で、孤独だった。山本先輩はこっちに背を向けっぱなしで、振り向きもしない。
そして、そんな僕を、幻の少女はじーっと、何か言いたげに見つめてきた。幻とはいえ、僕を放置している山本先輩より、ずいぶん身近に感じられた。
僕は「少しそのへんを歩いて様子を見てきます」と山本先輩に言うと、立ち上がり、花の森のほうに行った。幻の少女はやはり、僕についてきた。
「君は本当に何も話せないのかい?」
歩きながら、幻の少女に問いかけてみたが、やはり返答はなかった。ただ、あくまで異国人のように言葉が通じていないだけという雰囲気で、まったく意思疎通ができないわけでもなさそうだ。まあ、幻なんだけれども。
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