星の緑の花の歌

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「せめて、どこかで充電だけでもできればいいんだが。防護服のバッテリーがこのままだと……」 「そうですね、そろそろ限界です」  そう、僕たちに時間はあまり残されていなかった。この星の酸素分圧は高すぎる。それを無害なレベルまで低下させるための防護服が機能停止したとたん、僕たちは酸素中毒で死んでしまうだろう。濃すぎる酸素は、人間には毒なのだ。  と、そんなときだった。遠くから、何かが聞こえてきた。 「先輩、なんでしょう、この音は?」 「音? 何も聞こえないが?」  山本先輩には聞こえていないようだった。何だろう。先輩は三十五歳で、僕は二十歳だから、モスキート音みたいなもんなのだろうか。若い人間じゃないと聞こえないという、高周波音のことだ。 「とにかく、僕には何か聞こえるんです。あっちです」  僕は音のするほうへ歩いた。山本先輩もそんな僕についてきた。次第に音は大きく、はっきり聞こえてきた。それは誰かの歌声のように聞こえた。歌詞はなく、ただ声をそのままメロディに乗せているだけのようだ。若い女のものようだった。  やがて、僕たちは突然、開けた、明るい場所に出た。浜辺だ。ツルはそこには生い茂っておらず、ベージュ色の砂浜に穏やかな波が寄せては返ししていた。目の前に広がる空は淡い紫色で、大小、二つの恒星が輝いていた。海面は深い紺色だ。  謎の歌は、その海の向こう、沖のほうから聞こえてきた。見ると、遠くに島のような影が見えた。
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