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それから僕たちは花の森の中に入っていった。僕にしか見えない幻の少女は、僕のあとについてきた。幻とはいえ、どういうつもりだろう。というか、幻ならせめて言葉が通じてもいいんじゃないか。こっちはかなり心細い状況なんだぞ。僕はだんだん、いらいらしてきた。
と、そこで僕はふとあることに気づいた。防護服の腕に付けられた計器を見ると、ここの酸素分圧は、さっきまで僕たちがいた緑の森よりずっと低くなっていたのだ。
「先輩、ここの酸素ってもしかして、薄いんでしょうか?」
「なんだ、急に?」
「腕の計器を見てください」
「ああ……って、なんだこりゃ?」
どうやら山本先輩の腕の計器も、僕と同じ数字を示していたようだった。僕の防護服の計器が壊れていたわけではなさそうだ。
「これなら、防護服なしで普通に活動できるレベルだぞ。なんで、ここだけ……?」
山本先輩は首をひねる。
「もしかすると、ここだけ気圧が低いんでしょうか?」
「いや、そんな感じはないだろう。酸素分圧がこのレベルまで低下するほどの気圧の変化なら、俺たちの耳がキーンってなるはずだぞ?」
「そうですね。気圧計ではかるまでもないですよね」
そもそも、ここの海抜は、さっきまでいた緑の森とそう変わらないはずだし。いや、むしろ低い? 浜から花の島の中にわけ入って奥に進んでいった僕たちだったが、その道のりはゆるやかな下り坂になっていた。たぶん、すり鉢状の地形の島なんだろう。
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