星の緑の花の歌

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「本当は、こんな未開の惑星で、生身で出歩いちゃいけないんですけどね」 「非常事態だ。しょうがない」  そう、人間の体には常に無数の細菌がついているものだ。いわゆる常在菌という。未開の惑星でそれを撒き散らすと、その星の生態系にどんな影響が出るかわからない。だから、普通は絶対に、たとえ生身で問題なく出歩ける星だろうと絶対に、防護服を脱いではいけないのだ。防護服は中の人を守るだけではなく、星の環境も守るためのものなのだ。……まあ、僕たちはもう脱いでしまったわけなんだけれども。  身軽になった僕たちは、さらに花の島の奥に進んだ。花と花の間隔は、緑の森に生えるツル同士よりも、いくらか広いようで、あたりは明るく、頭上から降り注いでくる二つの恒星の光が花々をやさしく照らしていた。そして、色とりどりの花を背景に、山本先輩の後ろ頭が見えた。がっしりとした体格の、中肉中背の人で、肌はやや浅黒く、顔立ちは彫りが深く、髪型は短い角刈りだ。ひょろひょろで色白の僕とは正反対の風姿だ。例えるなら、体育会系と理系って感じの対比だ。まあ、実際はどっちも理系なんだけど。  やがて、僕たちは何もない広場のような、開けた場所に出た。どうやら、そこは、すり鉢状のこの島のちょうど真ん中、底にあたるところのようだった。 「何も、ないか……」  山本先輩は落胆し、その場にへたりこんでしまった。
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