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「もしや、花火やること決定した感じー?」
俺の背後から、のんびりとした声が聞こえてくる。振り返れば、早苗とつるんでいる明日香が寝ぐせつきの髪をいじりながら歩み寄ってきた。
「はよ、明日香」
「おっはよー。龍斗くんもよっす」
「あぁ」
眠そうな顔の明日香によっと手をあげられ、龍斗がぶっきらぼうに返す。彼女もまた、龍斗が見えるクラスメイトの一人――俺を中心に始まった優しい嘘の協力者の一人だ。
「明日香も来るよね?」
「行くよー。そのためにいろいろ準備してたし」
「さすが。おーい、新田もくるよねー?」
ちょうど登校してきた新田を早苗が呼び止める。協力者の一人は、眩しいくらいの瞳をこちらに向けるとニッと笑った。
「花火の話だな⁉ おうよ! もち行くぜ!」
「新田は花火振り回しそうだよな~」
「なんだよ翔、オレのことを馬鹿だと思ってないか⁉」
「ま、まぁそれなりに……」
正直に言って苦笑すれば、おいおいと泣き真似をされる。彼はこうやってからかわれるのも好きなタイプだから、泣き真似はスルーしておく。こうして俺達の雰囲気を盛り上げてくれることには、いつも感謝しているけれど。
「んじゃ、今日はずっと花火のこと考えて過ごさねーとな。……そうだ龍斗、これ渡しとくわ」
新田は鞄から五千円札を取り出すと、龍斗に手渡した。それが花火を買うための金であることは、俺にでも理解できる。
「……なんで俺なんだよ」
「まぁまぁいいじゃねぇか! 好きな花火選ばせてやるから! な?」
「……まぁ、うん」
複雑そうな顔で龍斗は頷く。新田の気遣うような眼差しと言い方に、俺は察してしまう。
花火がきっと、俺たちの最後の思い出になる。できるだけ彼の願いを叶えようと、新田は気を利かせてくれたのだ。
「龍斗、俺も一緒に行くから最高の花火選んでやろうぜ!」
「……あぁ」
少し間を置いて、龍斗が小声で返事をする。綿密に練った計画ではないけど、いつかは龍斗のために花火をやろうって皆でこっそり約束してたりしたから、勘付かれてしまったか? 不安になりながら、早苗に視線を送る。彼女もどこか困ったように眉を下げて力なく笑った。
せめて、最後は皆で笑顔で終わりたい。
ワイワイ騒ぎながら夏の風物詩を楽しむ姿を想像しながら、俺たちはどこか暗い空気を残して席についた。
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