6人が本棚に入れています
本棚に追加
「……楽しかった」
俺は小さく脈打ってうとうとし始める落ちた線香花火を見つめた。
「今日はありがとな。龍斗も楽しんでくれてたらいいんだけど」
「もちろん楽しかった。今までで、一番。……翔」
「ん?」
「…………なんでもない」
龍斗はへらりと笑った。その切れ長の目を細めて、なかなか崩れることのない仏頂面を不器用ながらに緩ませて。
その顔が見たかったんだ。だから、本当にとりとめもない約束だったけれど、俺達にとって一番の思い出となるはずだった花火をしたかった。
いい夏の始まりだったな。
瞼の裏に焼き付いたままの煌びやかな光景と、彼の笑顔を忘れないようにそっと目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!