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ふと我に帰った時、早くも今日の全ての授業は終わっていた。
はぁ。
テスト前の貴重な授業だというのに、眠気覚ましと言ってぼぅっと授業を過ごしてしまうとは。失態だ。
大きく溜息を零すと、すぐさま担任が教壇に立ってしまい、帰りの支度も出来ていないまま、帰りのショートホームルームを受ける。
授業中に眠気を我慢したせいか、今になって押し寄せる眠気は倍近い。お陰で欠伸をしてしまい、大声で名前を呼ばれ、みっちり怒られてしまった。ついでに、軽い笑われ者決定だろう。
はぁ。
今日は幾度溜息をついたことか。その分だけ幸せが逃げるんだとすれば、一体何ヶ月分の幸せが飛んで行ったことか。
そんな上な空で長ったらしい話を聞き流し、ようやくとも思える帰りの挨拶で、今日は終わった。
「なぁなぁ、颯太。今日部活は?」
「何言ってんだよ。テスト一週間前だぞ」
「うちんとこはあるけど? ないの?」
「あー、晶んとこみたいな強豪部活じゃないからな」
「弱小部活、乙」
「おい、笑うんじゃねぇよ」
晶はあの日以降でも、何事もなかったように接して来る。
勿論、俺自身には抵抗があったことは否めないが、そんなことも冬に置いて来たかのように、進級した頃には忘れてしまっていた。
「じゃあね」
「じゃあな。部活頑張れよ」
「はーい」
見送った後、また大漁の教科書類を鞄に詰め込み、階段を降り、下駄箱で履き替え、校門へと向かう。
流石に完全防水でないのと、単純にこの低気温というのが綺麗に交わり、靴の感触は最悪だ。それに耐えながら、赤い傘を探す。ただ、目立つ色なだけあって、さほどの時間も掛からず見つけられたが。
「おーい、由実」
「遅いんだけど」
「ごめん。てか、うちの担任に文句言ってくれよ」
「はいはい。んじゃ、帰ろ?」
「ん」
校門を出てしばらく行った先、二つ目の信号を渡った後は俺たち以外の生徒は通らない。
無論、しっかり後ろを確認しておき、信号を渡って進んだところで、傘を左手に持ち変える。
軽く視線を送り、手袋を右手だけ外すと、彼女の左手を取った。
「寒いな」
「だね」
「ちょっと急ぐ?」
「いや」
「そっか」
血縁でなくとも、俺と彼女の間にあるのは兄妹。絶対に他の関係は入らない。そんな事、承知の上なのだ。
絶対に報われない恋。
いつか、どこかで必ず終わると知っていても。強く握る手がいつか離れると知っていても。
寄り添う二つの影は雪の白さの向こうに消えていった。
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