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終わる恋は白銀世界に咲く一輪の花
久々に降る雪の日の朝。感慨深く写真を見つめているのは妹だった。ただ、どうして俺はそんな様子に見惚れているのかは分からない。でも、惹かれるところがあるのは事実だ。
「さ、行こっか。お兄ちゃん」
「はいはい。戸締りは?」
「オッケー。ほら、早く」
リビングの電気を消し、廊下に出て、バックを拾い上げる。それにしても、学年末試験の一週間前というだけあって、いつもの倍くらいの重量をしていた。これを持って四十分の道のりを、それも雪道を歩くとなるといよいよ気が滅入りそうだ。
まぁでも、行くしかない。
「鍵は?」
「私が持ってるよ。ほら、早く」
「はいはい」
革靴に足を入れ、かかとを合わせる。そして、鏡の前に立ち、タイを軽く締めると、大きく一息して玄関を飛び出した。
今年は珍しく霙にもならず、雨なんかが降らなかったせいで雪が積もってしまっている。勿論、車通りの多い辺りは除雪がなされているのだが、ほんの少し人通りの少ない脇道に入ると、ザクザクした感触が足を着ける度に襲うような白銀一色だった。
「久々だね、こんなに積もってるなんて」
「だなぁ」
「お祖父ちゃん家を思い出すね」
「そうだな。あそこ、山奥の田舎だから余計に酷いし」
昔を振り返り、笑い合いながら普通に歩いて行く。
雪に足元を救われる危険性なんて、祖父母の家の近くで嫌と言うほど身に染み付いている。それに、靴は防水仕様に変更済みなのだから、何も慌てる必要性もない。
ただし、気になる事はあった。
「んで、なんで俺らは回り道してんの?」
「へ?」
いつもと違う道、それも見たこともない道、未知の道だ。てか、上手いこと言ったな。ただ、いつもの倍くらい右折や左折を繰り返していることはよく分かる。
「いや、どう考えてもいつもの大きな道の方が早いだろ? こんな田舎道通るよりさ」
「はぁ」
溜息だ。溜息吐かれた。妹に呆れたような溜息吐かれた。全く、意外と傷つくんだが。
「あのねぇ、こっちの方が早いの」
「えっ」
「お兄ちゃんは知らないかもだけど、いつもは自転車に乗ってるし、パン屋に寄るためにも回り道してたの。普通に考えて、こっちの道の方が圧倒的に早い」
「はぁ? なんで?」
「なんでって言われても、こっちの道が近いからに決まってんじゃん」
「えぇっ」
はぁ。
こいつに道を任せておくんじゃなかった。まぁ、こいつ任せにしていた俺が言える話でもないが。
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