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そんな下らない話をして、適当に歩いた。四十分なんて、こうしていればあっという間。勿論、いつもは自転車での登校で、倍以上の時間がかかったのだから、長く感じていないと言えば嘘になる。ただ、話すことが尽きない以上、体感時間なんて変わりはしない。
そして、気付いた頃には、いつの間にか校門前まで着いていた。
「んじゃ」
「はいはい。また下校の時に」
一旦の別れを言い、バラけて下駄箱へ向かうも、まあ顔が合わないはずもない。
彼女は同じ学年なのだ。同じエリアに下駄箱があるのは必然と言っても過言ではない。一応、クラスは違うが。
「ヤッホー、颯太っち」
上履きに履き替え、革靴を取り、下駄箱にしまおうとして背を丸出しにした瞬間、思い切った全力の張り手が背骨のど真ん中に繰り出された。
パンッ。
それはそれは甲高く、いい音が鳴った。
次の瞬間、全身に走る衝撃、巡る神経に走る電撃、情報が集う脳、その全ては等しく重大なダメージとして換算される。それに耐えかねた体は喉から出る嗚咽に最期のSOSを残し、全機能を停止した。
「……って、死ぬとこだった」
何とか踏ん張り、機能を回復させた後、すぐさま後ろを振り向く。
「おいコラ、晶」
「何?」
そこには、呑気な雰囲気の中で満面の笑みを浮かべている人物がいた。
偶々中高と同じ学校で、現在同じクラスである仲井 晶。この女子は同じ部活だということや同じ趣味をもっているなど、俺との共通項の多い人物で、唯一心からの話が出来る人物でもある。
ただ一点、暴力的なのを除けば良い奴なのは間違い無いが。
そんな奴と改めて朝の挨拶を交わし、昨日配信された動画の話なんかで盛り上がりながら教室まで歩いて行く。俺自身もつい熱くなってしまい、ふと気付けば周りの視線はしっかりとこちらへと向いていた。
「今日もお似合いで」「相変わらずだね」「なのにねぇ」「良い夫婦だことで」
そんな野次にもならない話し声までしっかりと飛んでくる。
なんとも恋愛沙汰にうるさい人達だことで。まぁ、何よりもこんなことを言われていても尚、動じない晶も晶だが。
教室に着くと、自分の席に座って朝の支度を終わらす。ついでに午前中の科目の教科書も揃え、引き出しに入れておいた。そして、ようやくゆっくり無駄話が出来ると思えば、生憎ながら担任のご到着。無論、チャイム付き。
結局、退屈な学校生活の一日がまた始まってしまった。
朝のショートホームルーム。長い話が終わり、ほんの少しのトイレ休憩を挟んで、退屈極まる古典の授業が一発目。地味に寝不足な今日に限って。ついてない。
何とか寝ないように、ほんのちょっと外を見てみると、軽く息を飲む。こっちでは中々見ることが少ないであろう白銀世界が広がっていた。
やはり例年とは違い、ここから見える校庭には本当によく積もっている。これで、体育がつまらないお遊戯みたいになってしまう事以外は、全部が輝いて見えた、
はぁ。
それに今日の雪、軽いのに一粒一粒が大きく、平たく、あまり汚れが多くないような気がする。本当に珍しいことばかりだ。そんな中、不意に脳裏を横切る記憶の数々。それはきっと、今日があの日とよく似てるからだろう。
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