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確か、一年生の時だったと思う。
その日は雪とも霙とも取れるようなあまり良い天気ではないかった。ドス黒い雲に覆われていたその日、放課後に晶が俺を屋上へと呼び出したのだ。
勿論、天気の悪い日に屋上に行く馬鹿なんているはずもない。だからこそだったのだろう。
「好きです。付き合ってください」
いざ行ってみて、最初に言われたのは、たった一言だけ。それからしばらく続いた沈黙の後、俺は決まり切った答えを無慈悲にも口に出す。
「ごめん」
彼女自身、成功すると思っていたのだろう。その言葉、意味を認識すると顔の血の気がみるみる引いて行くのが、見ていてもよく分かった。
「……そっか」
濡れ髪を揺らすように吹き付ける雨風は俺と晶の間を勢いよく通り抜けて行く。
それでも、彼女は続けた。
「好きな人、いるの?」
その質問に、俺は答える。
「まぁ」
「誰かと、付き合ってるの?」
「うん」
「そう、なんだ」
晶は段々とこの天気に染まるような顔色を見せると、さらに続ける。
「折角だからさ、応援したいな。誰?」
その質問に、俺は答えなかった。
「ねぇ、何で教えてくれないの?」
「……悪りぃ。言えない」
「だから何で?」
そう言って詰め寄って来る冷気に満ちた晶の眼には黒く濁った涙が浮かんでいる。そして、何かに気付いたらしく、肩がプルプルと震え始めた。
次の瞬間、一言。
「そう言うこと、なんだ」
途端、顔は暗く、黒く代わり、目は一瞬にして死んでしまった。だが、次の瞬間には、怒りや憎しみといった感情が晶に乗り移ったような表情を見せる。
「……なら、言っておいてあげる。血が繋がってないからって、兄妹で恋するとか正直ありえないし、親だって喜ばないと思うけど」
何故、それを知っていたのか、そんなこと分かりはしない。だが、その口振りを見るに、察したことが出来事と出来事を繋げたんだろう。
「……何でよ。どうせ結ばれることなんて永遠にないじゃん。応援なんて……」
はち切れそうな声で呟く。でも、それはしっかりと俺の耳にまで届いている。ただ、この気温のせいか、頭は冷め切ってしまっていて、登る血も熱くはならなかった。
悪化の一途を辿る天候の中、晶は俯いたままだ。
「……何とか言いなさいよ」
それでも俺は口を開かない。
「あっそ」
すると、曇り切った眼のまま、俺の頬に一発。
痛い。辛い。
急に雨に変わった天気は容赦なく叩き付け、冷たさを押し付けてくる。そんなのは御構いなしで「じゃあね」なんて言うと、晶はその場から姿消した。
控えめに言って、最低な日だった。
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