命拾い

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 暗い。  寒い。  雨が降っている。  誰もいない。  違う、人はいっぱいいる。  ざわざわとして、何か騒いでいる。  俺はいつからここにいるんだろう?  大人ばかり十数人の中に、一人、女の子が見える。  女の子は明るくて温かそうな何かを持っている。  それは重心が安定しないのか、重すぎるのか、それとも軽すぎるのか……。  とにかく持ちにくそうなそれを、女の子は両手で不安定に持っている。 「あっ」  女の子がそれをポロリと腕から落とした。  いけない、それはとても大事なものだ。  とっさに手を伸ばす。  俺より一瞬早く、背広の男がそれをキャッチした。  ホッとする。  女の子もホッとしたように男に笑顔を見せ、白い手を男へ伸ばした。 「ありがとう」 「いや、これは私のものだ」  男はそれを両手で抱え込んだ。  女の子が蒼ざめる。 「待てよ、それはこの子のものだろう」 「そうよ、子供のものを取る気なの?」 「うるさい! 私が拾ったのだからもう私のものだ!」  周囲から非難の声がしても、男はそれを離そうとしない。 「返して!」  女の子が男につかみかかる。 「それは私のよ! あなたには自分のがあるでしょ!」
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