私の隠しごと

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私の隠しごと

 目を開けるとベッドの中。見慣れない天井と照明の色に、思わず目を細める。すぐ傍に人の気配を感じる。頭を動かすと視界がグラリと揺れた。視線を動かして、状況を確認する。私の隣には彼がいて、じっと私を見つめている。 「シオン……」  私の囁きに、彼はうっすらと笑みを浮かべる。手を伸ばして、私の頬にそっと触れる。私を見つめる彼の目には、私に対する愛おしさが感じられる。  ……だけど、私の頬には、何の感覚もない。 「レイ……」  彼が優しく私の名前を呼ぶ。その甘い声に私の心は高揚する。  でも何かおかしい。私は彼とこんな関係に……? しかも、あまりにも理想的過ぎる。これは、夢……。  彼から少し視線をずらして考える。気付けば、首以外、体のどこも動かすことができない。金縛りに似た感覚……。頭は混乱しているが、冷静になろうとしている自分がいる。  頭にノイズのようなものが走り、記憶が混濁する。一瞬、彼と私の記憶が重なり合い、幼い頃の思い出のように懐かしい場面がフラッシュバックして消えた。  感覚を研ぎ澄ますように深呼吸すると、まるでこの瞬間に初めて意識が自分の体に戻ったような錯覚に陥る。徐々に手の感覚を取り戻し、目の前の彼に手を伸ばす。彼の胸に触れてみる……。手に彼の胸の感触とその温もりを感じる。こんな瞬間を、私は確かに願った時があった。それが今実現している? だけど、彼の方がそれに反応する様子はない……。 「レイ……。君は僕だけのものだよ……。愛してる……」  嬉しい……。でも、嘘だ。愛とか……。彼がこんなこと……。  動揺した私は、自分の頬に手を当てる。しかし、なんだろう。耳に……。そのまま、感触を確かめるように手を頭へ。そして、目の方へ。  なんだ……。ああ。ヘッドセット、ゴーグル……。そうか……。  私は理解した。それを掴んでむしり取る。  やっぱり。  手には、触感センサグローブ。そしてそこに握られているのは、VRデバイスとヘッドセット。今のは全て、仮想現実……。  今私が現実と間違える程に入り込み、知覚していた情報は全て私が作り出したプログラム。同僚の研究員であるシオンの脳のバックアップデータから生み出したもの。正確には、そのバックアップデータに私が加工を施したもの。  これが私の隠しごと……。
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