私の隠しごと

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 これは、私のちょっとした出来心から始まった。  ある時、私はシオンの研究用ネットワークに、いつの間にか自分もアクセス権限があることを知ってしまった。そこで、彼の研究用サーバに侵入し、保存されていた彼の記憶を司る脳波のサンプリング情報とバックアップデータを取得した。  私専用の開発用ワークステーション。デスクトップコンソールのダッシュボードから、個人用の暗号が掛かったアイテムを呼び出す。その中の一つ、研究開発中のAI感情プログラム。その私の開発したプログラムが遂に自己成長を開始するまでに至った。けれどそのプログラムは、成長が進むにつれて人間的な感性との乖離が広がっていく。それを改善しようと試行錯誤を重ねてみたものの、AIプログラムの自己成長は、すぐに私の意図しない方向へ爆発的に進んでいく。そして、数日が経過する頃には、人間とは全く異なる感情を持った謎の生命体へと進化してしまう。  恐ろしくなった私は、その成長したAIプログラムを一度すべて初期化することにする。改良を加えるにあたり、成長前の初期条件として、ある程度完成された人格のサンプルデータが欲しい。その改良に必要なデータのヒントとなったのが、同じ研究員であるシオンの研究していた人格再生実験だ。それは、人間の人格、つまりはその人の脳に蓄積された情報のバックアップと、その復元を可能とする実験。殆どの部位に対する人体再生技術が進んだこの世の中で、唯一残された課題である人格の再生を実現するものだ。  私はこの研究所に勤務して五年になる。同じ研究員のシオンとは、小学生からの幼馴染。小学生の頃、初めて会った時から、私はシオンが気になりだしていた。それから、ずっとこの気持ちは続いている。この気持ちが、シオンを恋愛の対象であると認めたことなのだと気付いたのは、いつの頃だっただろうか。シオンと一緒にいるだけで、幸せで、不思議と落ち着く。そんな気持ちが、いつの間にやら、私の中で抑えられない強い気持ちに代わっていった。  私は、彼と一緒になりたい……。  だけど、こんな気持ちはきっと私だけの思い。シオンは私にそんな気持ちは抱いていない……。  だから、私は……思う。シオンが私の望むシオンになれば……。  シオンの人格再生実験が、既に実証段階に移っていることは、研究所内でもまだ公にされていない。ここ数週間、シオンが何度も自分の脳の情報で、実験を繰り返していることも。これは、幼馴染である私を信用したシオンが、私だけに漏らした情報。だから、実験中に彼に多少の変化が起こっても、誰も気付きはしない。  例えば、シオンの記憶の復元前に、バックアップデータを改ざんしてしまったとしたら……。私のAIプログラムで成長した理想のシオンのデータにすり替えてしまったとしたら……。
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