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一晩明け、眩い陽光に叩き起こされた。
朝、か。
時計を見てみるともう八時を過ぎていた。そんな事実に焦ることなく、いつも通りに制服へと着替え、バックに筆箱を入れると、すぐに家を出る。
まぁ、遅刻だろうが、別に気にはしない。それに行って、出席とるとすぐに帰って来るのだ。あんなところに僕の居場所などないのだから。
通学路を歩き、あともうすぐのところに、公園がある。そこは、昨夜も訪れた場所。僕の夜の家でもあるのだ。
ただ、何故か近くには何台かパトカーが停まっており、その中には救急車もあった。更に、公園には何人もの人がいる。
「ねぇ、君、そこの高校の子?」
ふと、後ろから声をかけられた。
警察。
一瞬、ビクッとしたが、取り敢えず「そうですけど」と言った。
「じゃあさ、山本 紗希さんって知ってるかな?」
その名前に、昨日の女性の顔が思い浮かんだ。ただ、ありきたりな名前といえばそうだし、別に彼女について何か知っているわけでもなかった。
「山本……うーん、顔見てみなきゃ分からないです」
「そっか。じゃあさ、昨日の夜、この辺に来た?」
流石にこの質問には焦ったが、何とか動揺を表に出さないようにする。
「い、いや、分かんないです」
「……分かった。ありがとう。引き止めてごめんね。もう遅刻でしょ? 警察の人に声掛けられたって言って貰って大丈夫だから。気を付けてね」
そう言うと、その警察は公園の方へと行った。
一体何があったと言うのだろうか。
訳も分からないまま、その場を離れようと歩き出す。
ピーッ。
ふと、何処からか笛の音が聞こえた気がした。あの彼女の胸元にあったあの笛の音が。だが、近くの木からだった。見上げてみると、そこには青灰色の鳥が一羽いただけ。
「なんだ、鳥か」
そう言えば、昨日別れ際に彼女は「また明日の夜」と言ったっけ。
今日も行けば会えるだろうか。
そう思うと、とても重かった足はほんの少し軽くなった気がした。
木の上では、鷽が鳴いている。
その音は、とても繊細で、綺麗で、切なく、とても軽かった。
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