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ゆきちゃんが村に戻ってきた。
何年も前に山で行方不明になった幼馴染。
全然手がかりがなくて当時は神隠しと言われていた。
もちろん大騒ぎになった。
今までどうしていたのか、なんで戻ってこれたのか、どうして姿が変わってないのか。
ゆきちゃんは何をきかれても、わからない、覚えてない、気がついたらこうだったのくりかえし。
触れてはいけないデリケートな問題として扱われつつゆきちゃんは村に受け入れられた。
私は幼馴染という理由でゆきちゃんのお世話がかりになった。
ゆきちゃんはこっそり色々教えてくれる。
あそこのお婆ちゃんはもう長くないとか。あの金持ちの家はもうダメだとか。今度の嵐で山が崩れて何軒も埋まるとか。流行病で小さい子供が村からいなくなるとか。不吉なことばっかり。
「ゆきちゃん、怖いことばっかり言うのやめてよ」
「あこちゃんは私の友達だから平気だよ」
おやつの柿をむいて出す。
「ありがと」
美味しそうに頬張るゆきちゃん。
「この村はもうダメなの。山の祠がよその土地の神様に乗っ取られちゃったからね。だから悪いことばっかり起きるんだよ」
そう言ってにっこり笑う。
大人の人に言うべきかどうかずっと迷ってる。
ゆきちゃんの言うことが今ひとつ信用できない。
帰ってきたゆきちゃんは本物っぽくないからだ。
ゆきちゃんこそ何かわけのわからないものに乗っ取られているんじゃないだろうか。
ゆきちゃんは私のことはあーちゃんと呼んでいた。
柿はタネのぬるぬるしたところが嫌いだった。
あのとき、些細な喧嘩から私がゆきちゃんを崖に突き落とした時にできたはずの傷跡がどこにも見当たらないからだ。
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