夜が明けたら、きみに。

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「今度じゃなくて、今日でもいいよ」 「だめ。ちゃんと休まないと倒れちゃうよ」 肩を寄せて、ゆっくりと歩いて。 「まどかちゃんが看病してくれるなら、それがいい」 「だめ。せっかくふたりでいるなら、楽しい時間がいい」 「でも、しばらく休めないかも」 「そうなの? 会えないの寂しいな」 「俺だって寂しいよ」 「じゃあ、もうちょっとくっついちゃおうかな」 ぎゅっとからみついてくる柔らかな腕。 首筋から匂う、安らかでいて酔いを誘う香り。 母親のような優しさに、あどけなさが残る横顔。 俺の身体と心に、深夜の興奮と夜明け前の安らぎをもたらす。 大きな通りまで出たところで、彼女がふいに立ち止まった。 どうしたの、と聞こうとしたら、正面から抱きつかれた。 彼女の腰に腕を回すと、彼女も俺の背中に腕を回してきて、ぎゅっとくっつきあった。 首筋にかかる温かい吐息と、スーツ越しにでもわかるやわらかな胸のふくらみが、俺の深くに眠っているものを呼び覚ます。 これは、もしかしたら。 そう思ってタクシーを止め、一緒に乗り込もうとすると、方向、ちがうからって首をぶんぶん振られた。 やっぱりだめか……、とその場でしょぼんとしてたら、チュッと頬にキスされて。 ぽかんとしてる俺に、次はちゃんと泊まる用意してくるから、って耳元で囁かれて。 ばいばい、と手を振り、はにかんだ笑顔を見せて。
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