34人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
路上に俺をぽつんと残し、颯爽と走り去るタクシー。
もうしばらくしたら朝日が差し込み眠りに落ちる歓楽街に、肌寒い風が吹いた。
だけど俺の心は、今までにないほど熱く踊り跳ね回っていた。
「朝までお疲れ様です」
くたびれたスーツ姿の俺を一人だけ乗せたタクシー運転手の言葉。
「そちらこそ、朝まで大変ですね」
「最近はコロナで売上げ下がっているから、乗っていただけるのはほんと嬉しいですよ」
ふだんは淀んで詰まっている幹線道路を、軽快に流れていくタクシー。
窓の外の真っ暗な闇が、遠くの方から少しずつ明るさを取り戻していく。
嫌なことやどうでもいいことは全部置き去って、好きなことや大切なものとだけ過ごしていきたい。
窓に反射して映る自分の顔に、目を細めて笑う彼女の顔が重なる。
「あれ、やばいなあ」
訝しむ運転手の言葉に反応して、前方を見る。
片側3車線の真ん中の車線を、右に左にフラフラする自動車が目に入る。
「もしかして……」
「飲酒運転の車かもしれないですね」
最初のコメントを投稿しよう!