夜が明けたら、きみに。

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路上に俺をぽつんと残し、颯爽と走り去るタクシー。 もうしばらくしたら朝日が差し込み眠りに落ちる歓楽街に、肌寒い風が吹いた。 だけど俺の心は、今までにないほど熱く踊り跳ね回っていた。 「朝までお疲れ様です」 くたびれたスーツ姿の俺を一人だけ乗せたタクシー運転手の言葉。 「そちらこそ、朝まで大変ですね」 「最近はコロナで売上げ下がっているから、乗っていただけるのはほんと嬉しいですよ」 ふだんは淀んで詰まっている幹線道路を、軽快に流れていくタクシー。 窓の外の真っ暗な闇が、遠くの方から少しずつ明るさを取り戻していく。 嫌なことやどうでもいいことは全部置き去って、好きなことや大切なものとだけ過ごしていきたい。 窓に反射して映る自分の顔に、目を細めて笑う彼女の顔が重なる。 「あれ、やばいなあ」 訝しむ運転手の言葉に反応して、前方を見る。 片側3車線の真ん中の車線を、右に左にフラフラする自動車が目に入る。 「もしかして……」 「飲酒運転の車かもしれないですね」
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