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彼と初めて会ったのは、十一年前、大学に入学して間もない頃だった。たしか必修科目の英語の授業の時で、たまたま前の席に座ったのが彼だった。
チャラチャラしたヤツ。
それが後ろ姿の第一印象だった。彼の髪の色がカフェオレみたいだったからだ。
まだ授業が始まる前で教室内がざわついている中、おそらく二、三列後ろ辺りから、「りゅう、りゅう」と誰かを呼ぶ声がした。すると前の席のカフェオレ頭が不意に振り返った。思わず顔を上げ、目が合う。が、彼の視線はすぐに後ろへと移り、声をかけた人と親しげに話しだした。
糸恵はなんだか恥ずかしくなってうつむいた。
まつ毛が長く、ほんのりと淡い栗色。彼はそんな目をしていた。流暢な日本語で話しているものの、色白の肌といい、顔立ちといい、彼が純粋な日本人でないことは一目瞭然だった。
王子様みたい。まるで少女のように、そんなことを思った。
目が合った瞬間から耳まで赤くなっていくのが自分で分かった。糸恵のことなど見ていないのは分かっているけれど、早く前を向いてほしい、そう思いながら、彼が話をしている間、シャープペンシルをいじったりしてずっと下を向いていた。
話を終えても、彼は前を向こうとしなかった。糸恵がおもむろに視線を上げると、彼は待っていたかのように軽く微笑んでから前を向いた。
その日の授業は完全に上の空だった。とったノートを後で見返しても、自分で何を書いたのか全く分からなかった。
以来、糸恵は彼の姿を目で追うようになった。
いかにも人目を惹く華やかな雰囲気。女の子のあしらいに慣れた都会の男の子であることは想像に難くない。糸恵の苦手なタイプだ。なのに、気が付けば彼の姿を探しているのだった。
来るはずの授業で見かけない日は落胆し、逆に、いつもは見ない時間にたまたま見かけたりすると心が躍った。
「りゅう」と呼ばれていた彼の名前は立花龍之介と言った。いかにも和風のその名前と見た目とのギャップもまた、彼の魅力の一つであることに違いなかった。
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