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「ねえ立花、あんたまさか遊びじゃないでしょうね」
萌はジョッキに残ったビールをぐびっと飲み干すと、「すいませーん、おかわりー」と店員に向かって叫んでから、龍之介に向き直ってそう言った。萌は龍之介とまともに話をするのは初めてで、店に入ってからまだ四十分ほどだというのに、まるで昔からの知り合いのような口調だ。
「何だよそれ」
「だってあんたいっつも周りに女子はべらせてんじゃん」
「そんなことしてないよ」
あの日の出来事は夢ではなく、糸恵と龍之介はつき合うことになった。それを萌と菜々美に報告したら、萌がどうしても一度龍之介と話したいと言い出したのだ。
「うそ。あっちこっちで女の子たちとおしゃべりしてるの知ってるんだからね。口説いてるんじゃないの」
「そんなことしてないよ。話しかけてくるから普通に話してるだけだよ」
「だからそれはぁ、女子があんたと話したいってことなの。つまり、あんたは常に狙われてるの。ねえ正直さあ、今まで何人ぐらい喰っちゃったの? ん? 言ってみぃ?」
すでに菜々美の制止もきかない。
「あのさあ萌さん、俺多分、君が思ってるような男じゃないと思うよ」
「何よそれ」
「俺、いたって普通の、健全なる男子だから」
「だから健全なる男子はぁ、女が好きでしょ。まさか童貞とか言わないよね? ん?」
「そん……何なんだよもう。飲み過ぎなんじゃないの」
「あんた、ちょっとぐらいいい男だからって糸恵泣かせたらぶっ飛ばすからね」
「萌、もうわかったから。ね」
糸恵は割って入った。萌なりに糸恵のことを心配してくれているのはわかっていた。けれどそのせいで、何も悪いことをしていない龍之介が説教をされているみたいで申し訳なかった。
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