16人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの……さ……」
龍之介は何か言いにくそうに口を開いた。
「どうしたの?」
「俺もプレゼント持って来たんだけど、何て言うか、ちょっと失敗したって言うか、違うの用意するから、これはナシにしてほしいんだけど」
「どうして? それでいいよ」
「いや、でも……」
そんなふうに言われたら逆に気になって仕方がない。いったい何を買ってきたのだろう。
「それがいい。ちょうだい」
龍之介は苦笑いしながら渋々袋を差し出した。
中には、紙袋と同じ紺色の紙で包装された細長い箱が入っていた。白いリボンがかけられている。開けてみると、出て来たのは「R」がデザインされたイニシャルネックレスだった。
「かわいい! どうしてこれが失敗なの?」
「だって……」
糸恵のイニシャルである「I」が元々なかったのもあるけれど、自分のイニシャルをいつも糸恵に身に着けていてほしいと思って選んだのだそうだ。けれど後になって考えてみると、押しつけがましいというか、とても恥ずかしくなってしまったのだと彼は言った。
「そんなことない。すっごくうれしい。自分のイニシャルより絶対こっちのほうがいい」
心からそう思った。そして、勝手に恥ずかしがってヘコんでいる龍之介がとてもかわいかった。
龍之介は糸恵の手料理を美味しいと言って食べてくれたけれど、緊張のせいか糸恵本人は味もよく分からなかった。作るときには味見をしたから、少なくともすごく不味いということはなかったと思う。
「まさか、りゅうとこんなふうになれるなんて思ってもみなかったな。だってりゅうはみんなの注目の的で、私は“その他大勢”なのに。名前だって、今どき二十歳で糸恵なんて聞いたことないし」
字面だけ見て年配の人と間違われることはよくある。
幼いころから、糸恵は両親が付けてくれた自分の名前が嫌いだった。古い。ダサい。ダサすぎるのだ。周りの友達のかわいい名前が羨ましくて、「どうしてこんな名前にしたの」と親の前で泣いたこともあった。
最初のコメントを投稿しよう!