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やがて大学を卒業し社会人になると、学生の時のようにはなかなか会えなくなった。
糸恵だって忙しかったけれど、龍之介は電話しても出ないことや、メールの返信が返ってこないことも多くなった。
仕事で失敗したり、嫌なことがあったりした時にはそばにいてほしい。それが無理なら、せめて声だけでも聞きたい。なのに連絡が取れなくて、携帯を部屋の壁に投げつけたりもした。
一緒にいる時間が減ったことで、自分の知らない龍之介がどんどん増えていく。
やっと会えても、些細なことで喧嘩になった。怒り出すのはいつも糸恵の方だった。
「りゅう、いっつも仕事優先だよね。連絡だって全然くれないし。こっちから連絡しても無視するし」
「無視なんかしてないよ。糸恵だって働いてるんだから分かるだろ。しょうがない時だってあるよ。それに、俺が連絡しても糸恵が出られない時だってあるじゃん」
「あるけど、りゅうの方が断然多い。それにこの前だって、二人で部屋にいる時に女の人からの電話とってたし」
「仕方ないだろ。仕事で急ぎの確認があったんだから」
「本当に仕事の電話だったの? こそこそ部屋を出て行ったじゃない」
「テレビの音が邪魔だったからだろ」
不毛な会話だと分かっていた。けれど会えなくて不安なのに、会えばますます不安になるのだ。なんだか、龍之介がどんどん遠くに行ってしまうような気がしていた。
そして、社会人一年目の十一月二十五日。つき合い始めてから四度目の二人の誕生日。糸恵が前から行ってみたいと言っていたレストランを龍之介が予約してくれた。
約束の時間の少し前に待ち合わせ場所へ行くと、龍之介はまだ来ていなかった。
寒い中待つのは嫌だけれど、久しぶりのデートに心は弾む。何日も悩んで選んだ龍之介へのプレゼントを持って、彼が現れるのを待った。
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