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糸恵は長崎出身で、大学進学に合わせて上京した。地元にももちろんそれなりに素敵な人はいたし、外国人だっていた。だが、東京という所は格別だった。上京したばかりの糸恵には、街行く人達はみんな洗練されているように見えたし、大学でも東京出身の子はおしゃれで余裕があるように見えたけれど、立花龍之介はそんな中にいても目立っていた。
入学してほどなく、サバサバして物おじしない東京育ちの萌と、岡山出身でおっとりした性格の菜々美と仲良くなった。慣れない都会での生活で萌の存在は頼りになったし、菜々美は菜々美で、同じ地方出身者同士、悩みや不安を共有出来て心強かった。
ある時、急に授業が休講になり、三人で学内のカフェテリアで暇を潰していた。
「これ見て思い出したんだけどさあ、立花龍之介っているじゃない?」
萌は唐突に言って、手に持っていたジュースのパックを二人に見せた。黄色い髪の、外国人の男の子のキャラクターが描かれている。
「誰それ」
一瞬ドキッとした糸恵と違い、菜々美は名前を聞いただけではピンとこないようだった。
「ほら、目立つのいるじゃん。ハーフの」
それを聞いた菜々美は「あ~、あの王子様みたいな人ね」と、糸恵が最初に思ったのと同じ言葉を口にした。きっとたいていの人間は、彼にそういった印象を抱くのだろう。
「糸恵さあ、あいつのこと気になってるでしょ」
萌のまさかの発言に、咄嗟に返す言葉が出てこない。見透かしたように萌は続けた。
「いっつも見ちゃってるじゃん」
「そんなこと……」
立花龍之介に対する気持ちを口にしたことは一度もない。なのに何かと勘のいい萌は気づいていたらしい。気恥ずかしくて、糸恵は口ごもった。
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